最終更新: 2026年6月
SaaS有効化率改善とは、SaaS導入後に実際に利用開始されるまでの転換率を高める施策設計のことです。
医療機関向けのSaaSを導入してもらった後の「使われない問題」は、どのプロダクトでも深刻です。特に決済系のSaaSでは、導入から実際の決済デビューまでに複数の手順が必要で、現地に担当者が訪問しながら一緒に操作する形が標準的でした。ところが、訪問型の運用説明会がWEB形式に完全移行すると、「一緒にやる」が「自分でやってもらう」に変わります。KPI設計・仮説検証からPDCA実行まで一気通貫で支援する株式会社プロセルトラクションが支援する医療機関向けキャッシュレス・診療費決済SaaSのプロジェクトで、運用説明会のWEB化移行後に説明資料を全面刷新し、有効化率・決済デビュー率・処方箋送付率の3指標を同時に改善した取り組みを解説します(プロセルトラクション実績, 2025年度1Q)。
この記事の目次
1. 訪問説明会のWEB化が生んだ「自走できない問題」
「一緒にやる」が「自分でやってもらう」に変わった
医療機関向けキャッシュレス決済SaaSでは、導入後に担当者が現地を訪問し、実際の端末操作や資料設置を一緒に行うことで、確実に「決済デビュー(初回利用)」まで完了させていました。
しかし、運用説明会がWEB形式に完全移行したことで、状況が一変しました。
- 担当者が現地に行けないため、「一緒に操作する」ことができなくなった
- WEBで説明資料を共有するだけでは、医療機関側が自走して手続きを完了できないケースが増えた
- 処方箋の送付は来院患者数に比例するため、定期的な働きかけがないと送付率が自然に下がる
課題は「担当者が現地に行かなくても決済デビューまで完了させる仕組み」を作ることでした。
2. WEB説明会に特化した資料の全面刷新──3つの変更ポイント
「訪問前提の資料」を「WEB自走前提の資料」に変える
訪問型のときは「分からない部分はその場で担当者が補足」できていたため、説明資料は情報量が多い設計でも機能していました。WEB化後は「資料を見て自分でできる」設計が必要です。
説明資料の刷新で実施した3つの変更を解説します。
変更1:ペルソナ設定──誰に向けた説明なのかを明確にする
WEB説明会を受ける医療機関のスタッフは、デジタルツールに不慣れな方も多くいます。「医療事務スタッフが一人で見ても理解して操作できる」レベルに資料を設計しなおすことで、担当者不在でも自走できる状態を目指しました。
変更2:イラスト追加──文字の説明をビジュアルで補う
手順の多い操作説明をテキストのみで行うと、どのボタンを押すか・どの画面を見ているかが分からなくなります。実際の画面キャプチャとイラストを組み合わせることで、「この画面のここを押す」が直感的に分かる設計に変更しました。
変更3:1スライドの文字数削減──情報密度を下げて理解しやすくする
「1スライドに情報を詰め込む」設計は、担当者が補足説明しながら見てもらうことを前提にしていました。WEB説明会では受講者が自分のペースで見るため、1スライドに伝えることを1つに絞り、文字数を大幅に削減しました。
3. 処方箋送付率の改善──「未送付先」への定期アプローチ
決済デビューしても処方箋を送らなければ数値は上がらない
医療機関向け決済SaaSでは、決済デビュー(初回利用)が完了した後も、処方箋の送付を定期的に行わないと数値が上がりません。処方箋の送付率は来院患者数に依存するため、担当者側から定期的に「送付状況の確認」「未送付先へのアプローチ」を行う体制が必要でした。
未送付先への定期アプローチとして実施したことは以下のとおりです。
- 前月の処方箋送付件数と目標値の差分を毎月確認
- 送付実績がない医療機関にアポイントを設定し、改めて操作案内を実施
- 処方箋の送付が定着している医療機関の事例を「成功モデル」として横展開
4. 実践成果──有効化・決済デビュー3ヶ月連続達成
説明資料の刷新と未送付先へのアプローチを組み合わせた結果を紹介します(プロセルトラクション実績, 2025年度1Q)。
4月の成果:
- 有効化率:94%(前月比+9pt)
- 決済デビュー率:62%(前月比+12pt)
- 処方箋送付率:18.6%(前月比+6.2pt)
5月の成果:
- 有効化率:138%(前月比+53pt)
- 決済デビュー率:65%(前月比+15pt)
- 処方箋送付率:18.5%(前月比+5.4pt)
6月の成果:
- 決済デビュー数:20件(目標比+2件)
- 処方箋送付枚数:7,918枚(達成率98.6%)
- 有効化・決済デビューの両指標で3か月連続達成
説明資料の刷新という打ち手が、有効化・決済デビュー・処方箋送付率の3指標に連動して効いた形です。「訪問がなくても自走できる資料」という設計思想の転換が、WEB化後の数値改善を支えました。
5. よくある質問
WEB説明会で有効化率を上げるために最初に見直すべきポイントは何ですか?
最初に見直すべきは「誰がこの資料を見て操作するか」というペルソナの設定です。訪問時は担当者が補足できましたが、WEB化後は「一人で見て操作できる」レベルに資料を設計し直すことが起点になります。デジタルツールに不慣れなスタッフでも理解できる設計にすることで、自走率が大幅に改善します。
処方箋送付率が下がる原因と対策を教えてください。
処方箋の送付率は来院患者数に依存するため、定期的な働きかけがないと自然に低下します。対策としては、前月の送付件数と目標値の差分を毎月確認し、未送付の医療機関にアポイントを設定して改めて操作案内を実施します。また、送付が定着している医療機関の事例を「成功モデル」として横展開することも効果的です。
説明資料の文字数削減はどの程度が目安ですか?
基準は「1スライドに伝えることを1つに絞る」ことです。担当者が補足する前提の資料は情報を詰め込みがちですが、WEB自走前提では受講者が自分のペースで見るため、1メッセージ1スライドを徹底します。画面キャプチャやイラストで補完すれば、文字量を大幅に減らしても理解度は下がりません。
6. まとめ──WEB説明会時代のSaaS導入後支援の設計原則
医療機関向けSaaSの導入後支援において、WEB化後に「使われない問題」を解決するための設計をまとめます。
説明資料の刷新:
- ペルソナを明確にし「一人で見て操作できる」設計にする
- 画面キャプチャ+イラストで操作の流れを視覚化する
- 1スライド1メッセージで文字量を削減し、自走できる理解速度に合わせる
未送付・未利用先へのアプローチ:
- 毎月の送付実績と目標の差分を可視化し、未実施先を特定する
- 成功している医療機関の事例を横展開し、「こうすると定着する」を伝える
- 定期的な接触でフォローアップし、自走が止まった先に早期対応する
訪問が前提だった説明会がWEB化した後でも、「資料の設計と定期アプローチの組み合わせ」で導入後の活用率と成果指標を改善することができます。
この記事の執筆者
長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役
リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。200を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。







