最終更新: 2026年6月
インサイドセールスのML設計とは、マネジメントリードが振り返りの構造化とパイプライン分析でチームの課題を特定し、アポ獲得率を改善する管理手法です。
インサイドセールスのマネジメントリードとして同一プロジェクトに長期在籍し、チームを競合他社比で単独トップに導くためには、「数字の見方」と「アポ獲得の設計」を共通言語としてチームに根付かせる必要があります。「なんとなく架電している」状態を「課題が分かって動いている」状態に変えることが、長期的な高パフォーマンスの基盤になります。KPI設計・仮説検証からPDCA実行まで一気通貫で支援する株式会社プロセルトラクションにてML部門年間MVP賞を受賞した担当者の実践事例から、福祉施設向け業務支援SaaSのインサイドセールスにおいて、「振り返りの構造化」「パイプラインのフェーズ別分析」「同調→共感→誘導の3STEPアポ設計」という3つの取り組みで、担当チームが競合4社中単独112%達成・売上首位(3,170万円)を実現した手法を解説します(プロセルトラクション実績, 2024年度)。
この記事の目次
1. 「スクリプトを読むだけ」の状態が生む数字の上限
メンバーがアポを取れない2つの根本原因
福祉施設向け業務支援SaaSの営業において、メンバーの数字が伸び悩む場合に共通して見られる状態があります。
問題1:「なぜ取れないか」の分析なしに架電を続けている
行動量は確保できていても、「どのフェーズで失っているか」が分かっていません。アポが取れない原因が「接触率の低さ」にあるのか「トークの問題」にあるのかを特定しないまま、「もっと架電しよう」という行動量の増加だけで対処しようとしている状態です。
問題2:スクリプトを「読む」だけで終わっている
架電でスクリプト通りに話すことはできているが、顧客の反応に合わせた「スクリプト+αのトーク」ができていません。スクリプトを読み上げているだけでは、断られた際の切り返しが機能せず、アポに変換できません。
この2つの問題を解決するために設計したのが、「振り返りの構造化」「パイプライン分析」「3STEPアポ設計」の3つです。
2. 振り返りを「課題→原因→対策→効果」の4段階で構造化する
「毎日振り返りしてますか?」という問いから始まる
メンバーに最初に問いかけたのが「毎日振り返りしてますか?」という質問です。この問いに対して「はい」と答えられても、「振り返りの中身」が「今日アポが取れなかった」「明日は頑張ろう」という感想レベルにとどまっていると、振り返りが改善につながりません。
振り返りの4段階構造:
- 課題:どんな課題があるか?「今日アポが取れなかった」ではなく「アポ獲得率が15%でKPIの20%を下回っている」という定量の課題を特定します
- 原因:その課題が生じる原因は何か?(なぜ?)「なぜアポ獲得率が低いか」を特定します。「切り返しがうまくできていない」「顧客の雰囲気に合わせていない」という具体的な原因を言語化します
- 対策:その原因を解決する具体策(だから、どうする?)原因が特定された後に、「では何を変えるか」を決めます。原因の言語化なしに対策を考えると的外れになります
- 効果:具体策を実施した場合の効果予測(すると、どうなる?)「この対策を取れば、アポ獲得率が15%から18%に改善できる」という効果予測を立てることで、改善の検証軸ができます
「現状把握&相談」のフェーズ(課題→原因)は、マネージャーやリーダーへの相談も活用します。「実行&効果予測」のフェーズ(対策→効果)は、自律的に動けるようになることが目標です。最終的に目指す状態は「自律自転」──自ら考え、判断・行動・振り返りができる個人とチームを作ることです。
3. パイプラインをフェーズ別に分析して「改善すべき箇所」を特定する
「なんとなく行動量を増やす」から「どのフェーズを改善するか」へ
パイプライン分析は、「行動量→接触数→アポ獲得数→商談化数→受注数」という各フェーズをKPIと実績で比較し、「どこで数字を失っているか」を特定する方法です。
パイプライン分析の3段階:
【大項目】定量で現状を把握する
- KPIとの差分を見る:自分の数字がKPIからどの程度乖離しているかを確認する
- 達成者との差分を見る:同じ環境で達成しているメンバーと自分を比較し、「どこが違うか」を把握する
【中項目】どのフェーズの差分を埋めるかを決める
- 「接触率」「アポ獲得率」「商談化率」「受注率」のどのフェーズに最も改善余地があるかを特定する
- 行動量が同じ1,000件でも、アポ獲得率が15%から20%に改善するだけで受注数が変わる
【小項目】具体的な改善シミュレーションを行う
例として次の4つのシミュレーションが有効です。
| 改善パターン | 変更内容 | 予測結果 |
|---|---|---|
| 行動量増加 | 1,000件→1,300件 | アポ20件・受注4件(KPI達成) |
| 接触率改善 | 10%→14% | アポ21件・受注4件(KPI達成) |
| アポ獲得率改善 | 15%→20% | アポ20件・受注4件(KPI達成) |
| 受注率改善 | 20%→27% | 受注4件(KPI達成) |
「どのフェーズを改善することが最も現実的か・効率的か」を数字で確認してから行動の優先度を決めることで、「とにかく行動量を増やす」という非効率な動き方を避けられます。PDCAの起点となるパイプライン分析が、標準化・再現性のあるチームマネジメントの基盤です。
4. スクリプト+αの「同調→共感→誘導」3STEPでアポに変換する
スクリプトを「読む」のではなく「活用する」
アポが取れないメンバーとアポが取れているメンバーの最大の違いは、スクリプトの使い方にあります。
スクリプトを読むだけのフロー:
挨拶→趣旨説明→日切り→APNG(断り)→APNGへの切り返し→日切り
このフローでは、断りを受けた際の切り返しが機能しないケースが多くなります。スクリプトに書いてある言葉を返すだけでは、顧客の心が動きません。
スクリプト+αのフロー:
挨拶→趣旨説明→日切り→APNG→同調→共感→誘導→日切り
断りを受けた後に「同調→共感→誘導」のステップを入れることで、APNGからアポへの変換率が上がります。
STEP1:同調──聞く姿勢になってもらう
- 顧客の雰囲気に合わせる。明るい顧客には明るく、忙しそうな顧客にはテンポよく
- 共通認識の会話(地域・業界・時事)から入り、顧客属性に近い話題をする
- 架電の目的を明確に伝えた上で、「YESで答えられる会話」を意識する。「○○に関して△△ですよね?」という形で投げると、大体YESで返答が来ます。YESが積み重なると顧客の聞く姿勢が生まれます
STEP2:共感──話を聞く・否定しない
- 顧客の悩みや課題は全て肯定する。「良く聞きます」「皆様同様の悩みや課題感をお持ちで」という形で受け止め、相槌を打つ
- 話を被せない。顧客が話している間は遮らず、断りの理由を丁寧に聞き出す
- 押し売り感・営業感が出ると不信感につながるため、「聴く姿勢」を徹底する
STEP3:誘導──肯定しながら繋げる
- 顧客のNG理由に沿って解決策を提示する。「○○の部分が課題とのことですが、実は同じ状況の施設様がこちらの話を聞いて解決できたケースがあります」という形で商談へ誘導する
- 「逃げ道の準備」をする:「すぐに決める必要はありません」「必要ないと感じたら即終話いただいて大丈夫です」と伝えることで、顧客の心理的ハードルが下がる
VOCから得られた顧客の断り理由をスクリプト構築にフィードバックし、3STEPの切り返しパターンを蓄積することで、チーム全体のアポ獲得率が底上げされます。
5. 実践成果──競合4社中単独112%・売上3,170万円・プロセルがシェア56%
福祉施設向け業務支援SaaSのインサイドセールス管理での実践成果は以下の通りです(プロセルトラクション実績, 2024年度)。
競合比較成果:
| チーム | 達成率 |
|---|---|
| プロセルチーム | 112%(目標2,839万円→実績3,170万円) |
| 競合A社 | 53% |
| 競合B社 | 79% |
| 競合C社 | 84% |
4社中プロセルのみが達成・売上も圧倒的首位を記録しました。
体制拡大成果:
- 全体営業人数:4月31名→37名(4Q増員6名で競合との差を拡大)
- 全営業66名中プロセル人員:56%のシェアを占める
- 年間純増8名中6名がプロセルアサイン
- プロセル年度別アサイン推移:2022年度5名→2023年度17名→2024年度31名→2025年度37名(順調拡大)
振り返りの構造化・パイプライン分析・同調→共感→誘導の3STEPという3つの取り組みが、「スクリプトを読むだけの状態」から「自律的に課題を分析してアポに変換できる状態」へのチームの変容を実現しました。
6. よくある質問
振り返りの4段階構造はどのように定着させますか?
最初は毎日の振り返りの場でマネージャーが「課題は何?」「原因は?」「対策は?」「効果予測は?」と順番に問いかける形で進めます。メンバーが自分で4段階を回せるようになるまで繰り返し、徐々にマネージャーの介入を減らして自律自転の状態に移行します。重要なのは「感想」と「分析」の違いをメンバーが体感できるまで続けることです。
パイプライン分析はどの頻度で実施すべきですか?
週次での実施を推奨します。月次では改善サイクルが遅くなり、日次では傾向を掴むにはサンプルが少なくなります。週次で「どのフェーズの数字が落ちているか」を確認し、翌週の行動優先度を決める形が最も効率的です。KPIとの乖離が大きい場合は日次で確認し、早期に軌道修正します。
同調→共感→誘導の3STEPはどの業界でも使えますか?
はい、業界を問わず活用できるフレームワークです。同調で聞く姿勢を作り、共感でNG理由を引き出し、誘導で解決策に繋げるという流れは、どの業界のインサイドセールスでも共通する顧客心理に基づいています。業界ごとに変わるのは「同調で使う話題」「共感で受け止める課題の内容」「誘導で提示する解決事例」の具体的な中身です。
7. まとめ──福祉施設向けSaaS営業チームを競合首位に導く3つの設計
インサイドセールスチームの数字を継続的に伸ばし続けるための実践手法をまとめます。
振り返りの4段階構造化:
- 「課題→原因→対策→効果」の4段階で振り返りを行い、「感想」を「改善計画」に変える
- 自律自転(自ら考え・判断・行動・振り返り)できる個人を育てることが、チーム全体の数字の底上げにつながる
パイプライン分析の3段階:
- KPIとの差分・達成者との差分を定量で把握する
- どのフェーズに改善余地があるかを特定し、改善シミュレーションで優先度を決める
- 「行動量を増やす」前に「どのフェーズを改善するか」を決める
同調→共感→誘導の3STEPアポ設計:
- スクリプトを読み上げるだけでなく、断りに対して「同調→共感→誘導」のステップで切り返す
- 同調でYESの姿勢を作り、共感でNG理由を引き出し、誘導で肯定しながら商談につなぐ
- 「逃げ道の準備」で顧客の心理的ハードルを下げることが、アポ獲得率の改善に直結する
これらの設計を組み合わせることで、競合4社中単独112%達成・売上首位3,170万円という成果を実現しました。
この記事の執筆者
長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役
リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。200を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。







