最終更新: 2026年6月

大手企業向けの営業の型とは、関係性構築・複数商談設計・商談後フォローの3つのフェーズを標準化し、属人的な営業から脱却して受注を継続的に増やすための再現可能な営業プロセスです。

大手企業への受注は、中小企業とは根本的に異なる営業プロセスを必要とします。担当者だけでは意思決定できない・決裁に複数の関係者が関わる・リードタイムが長い──これらの特性を無視して「一度商談して終わり」という営業スタイルを続けると、受注率は低いまま改善しません。

株式会社プロセルトラクションの実践事例から、属人的な営業から脱却し、大手企業への受注を継続的に増やすための「営業の型」を解説します。プロセルトラクションではKPI設計・仮説検証に基づいた営業プロセスの標準化・再現性の確保を支援しています。

この記事の目次

なぜ大手企業への受注に苦戦するのか──3つのフェーズの属人化

「属人的な営業」が大手受注の障壁になる

大手企業への受注が伸び悩む根本的な原因の一つは、「営業の型がなく属人的な状態」にあります。属人的な営業の問題点は、うまくいった場合もうまくいかなかった場合も、その理由が分析できないことです。

特に大手企業向けの営業では、以下の3つのフェーズそれぞれに型が必要です。

事前準備:相手の企業規模・業種・担当者の役割に応じた情報収集と仮説立てが属人化している場合、担当者によって商談の入り方が大きく変わります。これでは「なぜあの商談は成功したか」の再現ができません。

商談:大手企業の担当者は、商談で良い印象を持っても「自分では決められない」という立場の人が多い。商談での対話の質・担当者の合意形成の仕方が型化されていないと、担当者との商談を終えた後の動きが見えなくなります。

商談後フォロー:「また連絡します」という形で終わった商談を、その後どの頻度でどんな情報を提供しながらフォローするかが設計されていないと、フォローのタイミングと内容が各担当者の感覚に依存します。

大手企業受注を増やす3つの営業の型

前提:サービスへの深い理解が型の土台になる

営業の型を構築する前提として、「サービスへの深い理解」と「そのサービスを作った方の考え方・価値観の理解」が必要です。

大手企業の担当者・役員クラスへの提案では、「サービスの機能説明」を超えた「なぜこのサービスが生まれたのか」「このサービスを提供する側が何を実現したいのか」という背景理解が求められます。表面的な機能説明だけでは、大手企業の担当者が「このパートナーなら任せられる」という信頼感を持てません。

サービスを作った側の価値観・考え方を深く理解した上で提案することで、担当者の「この会社・この人なら信頼できる」という感覚を引き出せます。

型1:相手のタイプに合わせてコミュニケーションを変え、担当者と仲間になる

大手企業への営業で最初に必要なのは、「担当者と仲間になる」という関係性の構築です。

大手企業の担当者は、毎日様々な営業担当者からアプローチを受けています。その中で「この人は信頼できる」「この人とは話しやすい」という関係性を作ることが、次のステップへの前提になります。

相手のタイプに合わせたコミュニケーションの設計:

担当者によって、コミュニケーションのスタイルは大きく異なります。

  • 論理型:データ・根拠を重視し、感情的な訴えより事実を好む
  • 関係型:信頼関係の構築を重視し、人として打ち解けることを優先する
  • 効率型:時間をかけた説明より、要点を絞った簡潔な提案を好む

相手のタイプを見極め、そのタイプに合わせてコミュニケーションを調整することで、「話しやすい」という印象が生まれます。担当者が「この人なら自社の上長に紹介しても恥ずかしくない」と感じた時点で、次のステップ(役員への提案機会)が生まれます。

型2:担当者だけに任せず、役員提案まで自分が商談に出続ける

大手企業への受注が止まるパターンの一つは、「担当者との商談は順調だったが、役員提案で止まった」という状態です。この状態を防ぐには、「担当者に任せきりにしない」という設計が必要です。

大手企業向け複数商談の設計:

担当者との初回商談で合意形成を得ながら、「上司・役員への説明の機会」を自分で作ることが重要です。「担当者の方から役員に説明していただく」という流れでは、役員提案の中身や伝え方のコントロールができません。

「次回は上の方にもお時間をいただいて、具体的な内容をご説明させていただけますか」という形で、自分が次の商談にも参加できる機会を担当者との合意の中で作ります。

役員商談での合意形成のポイント:

  • 担当者レベルの課題だけでなく、経営・事業レベルでの課題感と解決策を提示する
  • 「この投資がどのような成果につながるか」というROIの説明を準備する
  • 役員が「実際どんな企業が使っているか」を聞いた際に答えられる事例を準備する

役員商談まで自分が参加することで、決裁に必要な情報が確実に伝わる状態を作れます。

型3:毎商談後のフォローを設計し、自分の名前を覚えてもらう

大手企業への受注を増やすためのもう一つの重要な型が「毎商談後のフォロー設計」です。

大手企業の担当者は忙しく、商談が終わった後でも複数の業務を並行して抱えています。「また連絡します」と言ったまま連絡が来ない営業担当者は多く、逆にいえば継続的に価値ある情報を提供しながらフォローを続ける担当者は少ない状況です。

フォロー設計の3つのポイント:

1. 連絡手段を相手に合わせる:相手が電話・メール・SMSのどの連絡手段を好むかを把握した上でフォローを行います。初回商談の際に「連絡はどちらが取りやすいですか?」と確認しておくだけで、フォローの連絡到達率が上がります。

2. 確認事項がない時もGIVEし続ける:「何か確認することがある時だけ連絡する」というパターンでは、連絡の頻度が下がり、担当者の記憶から薄れます。「御社と関連するニュースがありましたので共有します」「同業他社の事例ができましたので参考まで送ります」という形で、確認事項がなくても価値提供の連絡を続けます。

3. 「名前を覚えてもらえるくらいの関係構築」を目標にする:担当者が「あ、○○さんからだ」と名前を見て返信しようという気になるレベルの関係を作ることが目標です。この関係ができた段階で、担当者が社内で「○○という提案を受けているんだけど、上に話を通しておこうか」と動いてくれる可能性が高まります。

「属人的営業」と「型のある営業」の違い──5つの比較

属人的な営業と型のある営業では、日常業務の各場面で大きな差が生まれます。以下に両者の違いを整理します。

事前準備:
属人的:担当者の経験と勘で情報収集の深さが変わる/型あり:企業規模・業種・担当者の役割に応じた調査項目が標準化されている

初回商談:
属人的:商談の進め方が担当者によってバラバラ/型あり:担当者のタイプ分類(論理型・関係型・効率型)に応じたコミュニケーション設計がある

決裁者へのアプローチ:
属人的:担当者に任せて結果を待つ/型あり:自分が役員商談に出続け、決裁に必要な情報を直接伝える

商談後フォロー:
属人的:フォローの頻度・内容が各自の感覚に依存する/型あり:連絡手段・頻度・提供情報の設計がルール化されている

成果の再現性:
属人的:うまくいった理由も失敗した理由も分析できない/型あり:型があるから「何が効いたか」「何を変えるべきか」のPDCA実行・改善サイクルが回せる

大手企業受注増加の実践結果:3ヶ月で受注3社から10社へ

受注規模の変化

HRテック系SaaS業界の大手企業向け営業で、以下の成果が実現しました(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

型の整備期間(3ヶ月間):受注3社。従業員数200〜300名規模の企業が中心。

型が機能した期間(3ヶ月間):受注10社。従業員数3,000名以上の企業が半数以上を占める。

3ヶ月で受注社数が3社から10社に増加し、受注企業の規模も大幅に拡大しました。前半では中規模企業が中心だった受注が、後半では大手企業が主体となる構造に転換できたことが、この期間の最も重要な成果です。

この変化は、「相手のタイプに合わせた関係構築」「役員商談まで自分が出続ける商談設計」「毎商談後のフォロー」という3つの型が機能した結果として実現しました。

大手企業向け営業の型を構築するためのチェックリスト

自社の大手企業向け営業に型が構築されているかどうかを確認するためのチェックリストです。

  • サービスの機能だけでなく、サービスが生まれた背景・価値観まで担当者全員が理解しているか
  • 初回商談で担当者のコミュニケーションタイプを見極める基準が明確か
  • 担当者商談から役員商談へ進む際の具体的なアクションが設計されているか
  • 商談後フォローの頻度・内容・連絡手段がルール化されているか
  • フォロー時に提供する情報(業界ニュース・事例・データ)のストックがあるか
  • 成功した商談のパターンが言語化され、チームに共有されているか
  • 失注した案件の原因分析と型の改善サイクルが回っているか

よくある質問

大手企業向けの営業の型はどのくらいの期間で構築できますか?

初期の型構築には3ヶ月程度を見込むことをおすすめします。最初の1ヶ月で現状分析と型の設計、2ヶ月目で実践と修正、3ヶ月目で型の定着と改善を行います。型が機能し始めてからも、PDCA改善サイクルで継続的にブラッシュアップします。

担当者のタイプ(論理型・関係型・効率型)はどうやって見極めますか?

初回商談の冒頭5〜10分で見極めます。論理型はデータや根拠を求める質問が多い、関係型は雑談や共通点を見つけようとする、効率型は「結論から教えてください」という傾向があります。最初の反応を観察し、商談の進め方をその場で調整します。

役員商談の機会を作るにはどうすればよいですか?

担当者との商談で合意形成が取れた段階で「次回は上の方にもお時間をいただいて、具体的な内容をご説明させていただけますか」と打診します。ポイントは、担当者が上司に「この提案は上に見せた方がいい」と判断できるだけの情報と信頼関係を初回商談で築くことです。

フォローで提供する「価値ある情報」とは具体的に何ですか?

主に3種類あります。(1)相手の業界に関連するニュースや法改正情報、(2)同業他社の導入事例や成果データ、(3)相手が抱える課題に関連するコラム・レポートです。「この情報は御社に関係すると思いお送りしました」という一言を添えることで、価値が伝わります。

営業の型を作っても、担当者が使いこなせない場合はどうしますか?

型の定着にはロールプレイと実商談のフィードバックの繰り返しが必要です。まずは型を使った商談のロールプレイを週1回実施し、実商談後には「型のどの部分が機能したか」を振り返ります。型は一度作って終わりではなく、チーム全員が使いこなせるまで反復と改善を続けるものです。

中小企業向けの営業と大手企業向けの営業で最も大きく異なる点は何ですか?

最も大きく異なるのは「決裁プロセスの複雑さ」です。中小企業では担当者=決裁者であることが多いですが、大手企業では複数のステークホルダーが関わります。このため、担当者商談だけでなく役員商談まで自分が出続ける設計が必要になります。

営業の型はどの業界でも適用できますか?

関係性構築・複数商談設計・商談後フォローという3つの型の骨格はどの業界でも適用可能です。ただし、具体的なコミュニケーション内容やフォローで提供する情報は業界ごとにカスタマイズが必要です。型は「フレームワーク」として活用し、中身は自社のサービス・市場に合わせて調整します。

まとめ──大手企業への受注は「営業の型」から始まる

属人的な営業から脱却し、大手企業への受注を継続的に増やすための実践手法をまとめます。

前提の整備:

  • サービスの機能だけでなく、サービスが生まれた背景・価値観まで理解する
  • この理解が、大手企業の担当者・役員への提案の深さを決める

型1:関係性構築

  • 相手のタイプ(論理型・関係型・効率型)を見極めてコミュニケーションを調整する
  • 「担当者と仲間になる」という関係性が、次の商談機会を生み出す

型2:複数商談の設計

  • 担当者商談で合意形成しながら、役員商談への機会を自分で作る
  • 担当者に任せきりにせず、決裁プロセスに自分が関わり続ける

型3:商談後フォロー

  • 相手が好む連絡手段(電話・メール・SMS)でフォローする
  • 確認事項がなくてもGIVEできる情報を提供し続ける
  • 担当者に「名前を覚えてもらえる」レベルの関係構築を目標にする

これらの型を組み合わせることで、大手企業への受注社数と受注規模を同時に拡大する構造が作れます。

プロセルトラクションの新規事業セールス支援サービスでは、VOC収集・活用からスクリプト構築、標準化・再現性の確保まで、大手企業への営業組織づくりを一貫して支援しています。

この記事の執筆者

長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役

リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。100を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。