最終更新: 2026年6月

アップセル営業の提案型転換とは、既存顧客に対するPUSH型の売り込みを止め、フォロー起点の関係構築から顧客課題に即した提案を行う営業手法です。

既存顧客へのアップセル(追加提案)営業は、新規営業とは根本的に異なるアプローチを必要とします。すでに取引関係がある顧客に対してPUSH型の営業をかけると、「また売り込まれた」という感覚を与えてしまい、表面上の返答しか引き出せなくなります。KPI設計・仮説検証からPDCA実行まで一気通貫で支援する株式会社プロセルトラクションにてMVP賞を受賞したチームの実践事例から、清掃・物件管理向けサービスのアップセルチームにおいて、PUSH型営業から提案型への転換・700社CLのセグメント分け・ナレッジ共有の仕組み化により、営業生産性を目標の2倍以上の7.5万円に引き上げ、事業全体のSMB売上の73%をアップセルチームが担う体制を確立した手法を解説します(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

1. 発足したばかりのアップセルチームが直面した3つの壁

「メンバーを増やせば成果が上がる」という仮説が崩れる

清掃・物件管理向けサービスの営業において、既存顧客へのアップセル営業は初めての試みでした。1名体制で開始したアップセルが10万円の成果を上げたことで、「メンバーを増やせば営業生産性が向上する」という仮説のもとで2名を追加し3名体制にしました。しかし、増員後2ヶ月間、営業生産性は2.7万円で必須基準の3.5万円に届かない状態が続きました。

発生していた3つの課題:

  1. 各自の行動が成果に結びつかない:手探りの状態のまま、割り振られた既存顧客に対して同じようなアプローチをしているが、受注につながらない
  2. 表面上の情報しか引き出せない:情報ヒアリングや新規物件の営業を試みても、「今は大丈夫です」「また改めて」という表面的な回答しか得られず、数字につながらない
  3. 優先順位が見えない:担当する既存顧客のどこから手をつければ成果が出やすいかが分からない

これら3つの壁を突破するために取り組んだのが、「PUSH型営業の停止」「提案型へのナレッジ共有」「CLセグメントの9分割」です。

2. PUSH型営業を止め、フォロー起点の関係構築に転換する

「売り込まれた」という感覚を与えないコミュニケーション設計

アップセル営業の初期段階で陥りやすい失敗が、「今すぐ追加プランを提案する」というPUSH型のアプローチです。既存顧客はすでに一度意思決定をしてサービスを選んでいます。その状態で追加提案を正面から持ちかけると、「また売り込まれている」という防衛反応が生まれ、表面上の断りや的外れな回答が返ってきます。

PUSH型から転換した行動目的:

提案を先行させるのではなく、「サービスの作業報告などのフォローを中心に行う」という形で顧客とのリレーション構築を優先しました。行動の目的を「追加提案を取る」から「なんとなく利用→積極的に利用してもらう状態を作る」に変更したことで、顧客との会話の質が根本から変わります。

信頼関係が積み上がった状態で課題やニーズを把握することで、「提案されたから仕方なく検討する」ではなく「自分のニーズに合っているから前向きに検討したい」という受け取られ方に転換します。VOCを起点にした提案設計が、アップセル成約率を根本から押し上げる構造です。

3. 営業手法のナレッジ共有でPUSH→提案型を加速する

「提案余地があるケース」を全員が持ち寄って言語化する

PUSH型から提案型への転換は、個人が意識を変えるだけでは実現しません。「どのようなケースでどのような提案ができるか」という具体的な知識をチーム全員が持つことが必要です。

ナレッジ共有の設計:

チームメンバー各自が「提案余地があるケース」と「その場合の提案方法」を持ち寄り、相互にレクチャーし合う機会を設けました。

  • どのような状況の顧客に対して提案の余地が生まれるか(物件数が増えた・新しいエリアに展開した・現在のプランで課題が出ている等)
  • その状況に対してどのような角度で提案すると受け入れられるか
  • 過去に成功した提案のパターンと、うまくいかなかったパターンの違いは何か

この相互レクチャーによって、特定のメンバーだけが持っていた「どんな文脈で提案するとうまくいくか」という暗黙知が、チーム全員が使えるナレッジに変換されます。スクリプト構築の基盤となる提案パターンが標準化・再現性のある形でチームに蓄積されることが、PUSH→提案型への移行スピードを個人差なく加速させます。

4. 700社CLの9分割セグメントで営業優先順位を可視化する

「どこから手をつければいいか分からない」を構造で解決する

既存顧客への営業において、最も時間を無駄にしやすいのが「誰に対してどのタイミングで何を提案すべきか」の判断です。担当する顧客情報が不足していると、手当たり次第にアプローチするか、対応しやすい顧客だけに集中してしまうという状態になります。

700社の既存顧客(CL)を9つのセグメントに分割することで、この問題を構造的に解決しました。

セグメント分けで明確になること:

  • 今すぐアップセル提案の余地が大きい顧客はどこか
  • サービス利用度が高く関係性が構築できている顧客はどこか
  • 追加提案よりも育成フォローを優先すべき顧客はどこか
  • 引継ぎが発生した場合に必要な情報がすでに整理されているか

700社のセグメント分けを実施することで、「誰を優先して営業すべきか」が担当者全員に共通認識として持てるようになります。また、担当変更・引継ぎが発生した場合の情報共有の型化にも寄与します。KPI設計の土台となるセグメント設計が、行動の無駄を削減し営業生産性を構造的に押し上げます。

5. 実践成果──営業生産性2倍・SMB売上73%をアップセルチームが担う

清掃・物件管理向けサービスのアップセルチームでの実践成果は以下の通りです(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

月次推移(チーム全体):

売上達成率
11月172,163円71.7%
12月153,408円63.9%
1月181,021円100.6%
2月189,651円105.4%
3月239,965円133.3%
4月216,992円120.6%

定量成果:

  • 営業生産性目標3.5万円→実績7.5万円(2倍以上を達成)
  • 事業全体のSMB売上の73%をアップセルチームの数字が占める

定性成果:

  • 発足したばかりのアップセル営業の「型」の確立に寄与
  • 新規営業チームに対してケース別の提案方法を展開・共有
  • 700CLのセグメント分けにより営業優先順位の見える化と引継ぎ時の情報共有の型化を実現
  • アウトバウンド型からフォロー起点型へのシフトにより数字が安定化

未達が2ヶ月続いた状態から、PUSH型営業の停止・提案型への転換・セグメント分けによる優先順位の可視化という3つの取り組みを実行することで、3ヶ月目から100%超えの達成が続く状態になりました。

6. よくある質問

PUSH型営業と提案型営業の違いは何ですか?

PUSH型営業は「追加プランを今すぐ提案する」という売り込み先行のアプローチです。提案型営業は、フォローや作業報告を起点に顧客との信頼関係を構築し、顧客の課題やニーズを把握した上で「顧客にとって意味のある提案」を行う手法です。既存顧客は一度意思決定をしてサービスを選んでいるため、PUSH型では防衛反応が生まれやすく、提案型の方がアップセル成約率は高くなります。

700社のセグメント分けにはどれくらいの期間がかかりますか?

セグメント分けの実施自体は、既存の顧客情報がある程度整理されている状態であれば数週間で完了できます。重要なのは「分けて終わり」にしないことです。セグメント分けの結果を営業活動の優先順位付けに反映し、引継ぎ時の情報共有の型化にも活用する運用フローまでセットで設計することが、成果に直結します。

アップセルチームの営業生産性を上げるために最初に取り組むべきことは何ですか?

最初に取り組むべきは、PUSH型の行動目的を見直すことです。行動の目的を「追加提案を取る」から「顧客に積極的に利用してもらう状態を作る」に転換することで、顧客との会話の質が変わり、提案の受容率が上がります。その上で、チーム内でのナレッジ共有と顧客セグメント分けを並行して進めることを推奨します。

7. まとめ──アップセルチームをPUSH型から提案型に転換して安定した売上を作る3ステップ

発足したばかりのアップセルチームが営業生産性を目標の2倍に引き上げるための実践手法をまとめます。

PUSH型営業の停止と関係構築への転換:

  • 追加提案を先行させるのではなく、作業報告・フォローを起点に顧客とのリレーションを構築する
  • 行動目的を「提案を取る」から「積極的に利用してもらう状態を作る」に変更する

提案型ナレッジの相互共有:

  • 「どのケースで提案余地があるか」「その場合の提案の角度」をメンバー全員で持ち寄りレクチャーし合う
  • 個人の暗黙知をチームのナレッジに変換し、提案型への移行を加速する

CLセグメント分けによる優先順位の可視化:

  • 700社の顧客を9分割し、「今すぐ優先すべき顧客」「育成フォローが必要な顧客」を明確にする
  • セグメント分けの結果を引継ぎ情報の型化にも活用し、組織としての資産に変換する

これらの設計を組み合わせることで、未達が続いていたアップセルチームが3ヶ月目から連続達成を実現し、事業全体のSMB売上の73%を担う体制を確立しました。

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この記事の執筆者

長谷川裕樹

長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役

リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。200を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。