「SaaS元年」といわれた2018年以降、SaaS(Software as a Service)は急速に国内市場に浸透しました。わずか数年間のうちに多くのサービスがSaaSとして提供されています。

SaaSは、クラウドの仕組みを利用したサブスクリプションモデルのインターネットサービスです。SaaSの浸透に伴い、SaaS営業のニーズも高まっていますが、SaaS営業は一般的なシステムやITの営業と何が異なるのでしょうか。

この記事では、SaaS営業の概要や注意点を解説します。

営業するなら知っておきたい「SaaS」とは

SaaS営業について理解するために、そもそもSaaS(サース)がどのようなものかをイメージする必要があります。まずSaaSならではの特徴を解説します。

身近に使っているアプリケーションを思い出し、それらを導入する様子を思い出すとよいでしょう。

SaaSとは何か

SaaS(Software as a Service)とは、クラウドコンピューティングの技術を使って提供されるソフトウェアサービスのことを指します。

旧来は、インターネットのソフトウェアといえば、CD-ROMもしくはインターネットからPCにダウンロードして使用するタイプが一般的でした。

しかし、技術革新やインターネット通信の高速化などにより、ユーザはソフトウェアを買ってダウンロードしなくてもソフトウェアを利用できるようになりました。クラウド技術の進化です。

SaaSを利用するには、ユーザは提供者と利用契約を結びます。アカウント情報を受け取りユーザーとして利用登録を行います。月額性サブスクリプションモデルが一般的です。契約したのちに、有償もしくは無償にてサービスを利用できるようになります。

SaaSの具体的なサービス

最も早くSaaSを理解する方法は、具体的なサービスをイメージすることです。

超有名企業のアプリケーション名を聞けば、「それもSaaSの一種なのか」と多くの人がSaaSを学べるでしょう。以下のほかにも多数のSaaSが展開、提供されています。

  • Office365・・・WordやExcelなどのサービスをクラウド上で管理できるサービス
  • Salesforce・・・営業の顧客管理や進捗管理などをリアルタイムでおおなえる営業支援ツール
  • Slack・・・リアルタイムでの情報伝達をおこなえるコミュニケーションツール
  • freee会計・・・給与計算や決算書作成などをおこなうための会計ツール

上記の例は、ビジネスで用いられるものを紹介しましたが、Amazon PrimeやSpotifyなどの個人向けサービスも多数あります。また、クラウドサービスを利用して提供されるアプリサービスをAPIといいますが、現状SaaSとAPIはほぼ同じ意味で用いられています。

SaaSの特徴

ユーザ目線から見たSaaSの特徴は以下のとおりです。

  • サービスがインターネット経由で提供されるため物理的なソフトウェアが不要
  • サービス導入の初期コストが安い
  • アップデートに素早く対応できる

多くのSaaSは定額制(月額制/年額制)を採用しています。登録料が発生するケースなどもありますが、基本的には契約時にまとまった費用は発生しません

それにSaaSはいつでも解約が可能であり、コストのリスクが少ないのも魅力。ITシステムを新規導入すれば数百万円、数千万円が常識でしたがSaaSの拡大は一気に初期の導入ハードルを下げました。

SaaS営業に必要なことは

ビジネスモデルとしてSaaSが一般化した現在では、SaaS営業にも注目が集まっています。またSaasの営業ができる人材の人気も高まっています。

SaaSの営業現場ではどのような流れで営業が行われているのか、また一般的なITの営業とは何が異なるのか、SaaSの特徴を解説します。

SaaS営業の基本

SaaS営業をおこなううえで、前提となるのは以下の3つのポイントです。

  • 基本的にはBtoB営業(個人向けの商材はオンラインで完結する場合が多い)
  • 販売して終わりではなく、継続してもらう働きかけが重要
  • アップセルによって売上増を目指す

SaaSのようなサブスククリプション型の営業モデルは、売上が安定しやすいと言われます。月額費用が分かりやすく、基本的に継続利用を前提としたものだからです。

ただし、競合のサービスがある場合、顧客はいつでも解約、乗換ができるため、顧客に価値を提供し続けなくてはなりません。また、長期継続利用の他に、上位プランの契約やオプションの購入、ID数の増加などアップセルによって売上の拡大を図ることも重要な営業活動です。

SaaS営業の種類

SaaSの営業は、大きく分けて以下の3つの種類があります。

インサイドセールス

インサイドセールスは、オンラインサービスであるSaaSと相性の良い営業方法です。

オンライン上で見込み顧客とコンタクトを取り、購買意欲を高めたり、契約を獲得したりします。また画面を使ってサービス概要を説明できる場合は、わざわざ顧客のもとを訪ねる必要はありません。

フィールドセールス

フィールドセールスは、顧客を直接訪問し対面営業する手法です。

顧客のニーズを深く聞き出したり、クロージングをしたりする際には、対面での商談の方が効果的な場合もあります。また商品価格が高額なものは、顧客側がオンラインのみでは購入を決断しないことも少なくありません。

フィールドセールスには移動時間や交通費がかかるものの、重要な場面で採用されます。

カスタマーサクセス

カスタマーサクセスとは、サービスを利用開始した顧客に対して、顧客の利益を最大化(サクセス)させるために働きかけます。

能動的に顧客がサービスに対して満足するように「体験」を届ける役割。従来、クレームやトラブルが発生後に対応していたカスタマーサポートとは役目が大きく異なるものです。

SaaSでは、顧客の利用継続が重要なため、カスタマーサクセスが顧客の信頼をつかめるかは大きなカギとなります。

上記の3つの手法をうまく連携させながら、新規顧客の獲得と利用継続を同時に図っていく姿勢が求められると言えるでしょう。

SIerの営業職との違い

インターネットサービスの営業という意味で、SaaS営業はSIerの営業と混同されることがあります。

SIerの営業は、顧客にマッチするシステムとサービスを提案し、導入してもらうことを目標とする役割を担う仕事です。

SIerにはアカウント営業と言って、大企業を担当し同社の課題に対して自社のあらゆる商材を使って提案するタイプがあります。一般的に大規模で長期間に及ぶ営業スタイルなので、仮にSaaS企業に転職したらスピードの違いに困惑するかもしれません。

もちろんSIerの中には単純にソリューションを提案するタイプもあり、これはSaaS営業に近いものがあります。ただSaaS営業はサービスの継続利用を目指し顧客の課題解決の実践のため伴走する役割も担います。

SaaS営業の人材は不足している    

SaaS営業は、現状人材不足が指摘されています。

  • IT業界全体の人手不足
  • 急成長市場であるため、スキルをもった人材自体が少ない
  • 企業側に教育の体制が整っておらず、人材が育成できない

上記の理由から、営業人材さえいればサービスを拡張できるにも関わらず、「できていない」という状況が起こっています。SaaS営業の中にはキャリアアップを目指して同業の中で転職を繰り返す人も多くいます。

スキルをもった人材の価値はさらに高まっていくでしょう。

プロセルトラクションがSaaS営業の実践をサポート

この記事でSaaS営業の概要は理解できますが、それを自社に当てはめることはかんたんではありません。

プロセルトラクションではあなたの会社にマッチした営業方法のプランニングから実践までサポートしていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

まずは話を聞いてみる

SaaS営業に求められるスキル

SaaS営業にどのようなスキルが必要なのかが明確になれば、自社で育成する際の目安になるでしょう。

営業人材をアウトソーシングする際にもどのような視点でサービスを選べばよいのかが明確になります。SaaS営業を実践するために押さえておきたい用語と合わせてチェックしておきましょう。

必要とされるスキル

SaaSの営業をおこなう際に不可欠なスキルは、以下の4つのスキルです。

  • ヒアリングスキル

顧客の課題や要望を発見するために必要です。
SaaS営業はオンラインで行われることも多いため、対面だけではなくメールやオンライン商談の際に相手から悩みや要望を聞き出すテクニックも要求されます。

  • 問題解決能力

顧客の課題を解決するためにはどのような策があるのかをロジカルに考えられる力が必要です。
適切な解決策を提示すれば顧客からの信頼を獲得できるでしょう。

  • 自社サービスに関するユーザー目線の知識

課題解決や状況の改善のために利用できる自社のサービスを把握しておく必要があります。

  • IT全般に関する知識

技術者のようなスキルは必要ありません。しかし、SaaSのサービス概要を理解するためにも、円滑にオンラインでの商談を進めるためにも最低限のIT知識が必要です。

求められるスタンス

SaaSの営業では、以下のスタンスでのアプローチが必要です。

  • 顧客の課題に合ったサービスの提案
  • 顧客の課題解決
  • 継続的な関係の構築

上記のように、基本的に顧客に寄り添う姿勢で営業活動を行う必要があります。

顧客目線でのアプローチの重要性は従来から言われることですが、サービスの継続が不可欠なSaaS営業ではより顧客目線が重要と言えるでしょう。

SaaS営業で頻出する用語

SaaS営業をおこなううえで知っておきたい用語を解説します。

ARR(年間経常収益:Annual Recurring Revenue)

1年間に見込まれる収益のことです。コストなどの費用は考慮せず、売上のみを計算することが多くあります。サブスクリプションモデルのSaaSでは、単月ではなく年間トータルでの売上が重要な指標になります。

LTV(顧客生涯価値:Life Time Value)

LTVとは、1人の顧客が生涯のうちにどれだけの収益をもたらしてくれたかを表す指標です。

SaaSの場合は、契約から解約までに顧客が支払う金額のことを指します。時間×単価を定量化した数値であり、SaaSの収益性を計算するために非常に重要な指標です。

CAC(顧客獲得費用:Customer Acquisition Cost)

CACとは、顧客獲得のために費やした費用のことを表します。広告や営業に費やした総コスト÷顧客数によって算出します。CACを下げるためには、営業・マーケティングの効率化とLTVの増加がカギになります。

Churn Rate(チャーンレート)

チャーンレートとは、解約率のことを指します。SaaSでは、チャーンレートの数値が収益に直結します。

チャーンレート改善には、サービス改善・他社分析・価格などの見直しが必要になります。日ごろから目標値を設定して、数値を定期的に管理することが重要です。

Break-even Point(損益分岐点)

SaaSでは売上が上がり、投資費用を回収するまでに一定の期間がかかります。

損益分岐点に到達すると、サービスの需要が衰退しない限り利益を積み重ねていける可能性が高いでしょう。損益分岐点後の収益性が高い期間をどれだけ伸ばせるかがSaaS営業においては重要なポイントになります。

SaaS営業においては、これらの指標一つひとつを計測し、常に改善を図れるようにすることが重要です。

SaaS営業で注意すべき3つのポイント

SaaS営業を実践する際には、注意しておきたいポイントがいくつかあります。

この章では、特に重要なポイントを3点ご紹介します。

ノウハウの確立・蓄積が必要

多くの企業において、SaaS営業には実績がありません。効果的な営業手法や顧客のニーズなどがわからないまま、トライ&エラーを繰り返していくことになります。

このとき重要なことは、自社内に少しずつデータを築盛すること。営業手法別の顧客の反応、商談に至るまでの期間、解約率などあらゆるデータが将来の営業の精度を高めるために役立ちます。

また、蓄積したデータはデジタル管理も必須です。チーム内のメンバー全員が情報共有できるように、営業支援ツールや情報共有ツールにてデータを入力しましょう。

高機能な営業支援ツールを利用すれば、セグメント検索など情報を有効活用することも可能です。

チームでの協力・分業

SaaS営業は、従来以上に顧客との関係性が長期化する傾向があります。

顧客との契約の成立がスタート地点となり、その後サービスを通じて関係性が継続していくためです。当然ながら、サービス契約に至るまでの見込み顧客創出から顧客の購買意欲を高める過程も重要です。

これらの工程を一人の営業担当者ですべてカバーするのは不可能です。チームで組織を組んで顧客の情報を共有し、どの段階においても顧客の課題をチームで解決できる状況を整えなくてはなりません。

そのためには、相互に協力する姿勢・情報共有などのチームの体制の両方が必要とされます。

他部署との連携

SaaS営業は、マーケティング部や技術部との連携も不可欠です。また、橋渡し役としてのインサイドセールスやテレアポ営業なども欠かせません。

このように全社的な対応が求められるのは、SaaS営業において顧客の母数を増やすこと、満足度を高め継続利用を促すことが極めて重要であるためです。

営業部隊だけが数字を求めている組織では、どんなに成約率を高めても必要数の契約を得られないのではないでしょうか。契約を獲得しても顧客の離反が避けられない場面が生じてくるでしょう。

SaaS営業は、全社的に取り組む必要があります。

SaaS営業の要点をおさえて事業推進しよう

SaaS営業は、クラウドコンピューティングを利用したサブスク型のソフトウェアを販売し、継続利用してもらうことを目的とします。

顧客に継続利用を促すには、サービスが常に顧客にとって欠かせない存在である必要があります。営業が顧客に価値を提供し続けなければなりません。

SaaS営業は、まだサービスがスタートしての日数が浅く市場全体として、担当者が不足している事業モデルでもあります。したがって自社でのSaaS営業担当者の育成を図るとともに、必要に応じてアウトソーシングを検討してみるのもおすすめです。

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