最終更新: 2026年6月
SaaS比較サービスの営業設計とは、多種多様なSaaSカテゴリーの業務課題を体系的に理解し、顧客の部署別ニーズに合わせた提案を行うインサイドセールスの手法です。
SaaSの比較・発注サービスに携わるインサイドセールスが最初に直面する壁は、「何百種類もあるSaaSカテゴリーのどれについて話しているのかが分からない」という商材理解の難しさです。KPI設計・仮説検証からPDCA実行まで一気通貫で支援する株式会社プロセルトラクションにて4Q特別賞を受賞した担当者の実践事例から、IT調達マッチングサービスのインサイドセールスにジョインした直後に200種類以上のSaaSカテゴリーを自力でインプットし、リスト自作と失注分析によって売上を1月13万円から2月79万円へ6倍に引き上げた設計手法を解説します(プロセルトラクション実績, 2024年度)。
この記事の目次
1. アサイン直後のインサイドセールスが直面する3つの壁
「商材の幅広さ」がインプットの難易度を上げる
IT調達マッチングサービスのインサイドセールスにおいて、アサイン初期に陥りやすい状態は次の通りです。
- 比較・発注対象となるSaaSの種類が多すぎて、各カテゴリーの業務課題の違いが把握できない
- 顧客が「どのSaaSを探しているか」「なぜ必要なのか」を説明してくれても、業務課題と紐付けたヒアリングができない
- 競合他社との比較で「なぜこのプラットフォームを使うべきか」という切り返しができず、アポが失注に終わる
この状態から脱するために設定した課題が3つです。第一に「200種類以上あるSaaSカテゴリーの体系的な理解」、第二に「質の高いリストを自力で作成し月1,000件以上の架電量を確保すること」、第三に「競合との比較で負けないコンペライティングの設計」です。
2. 200種類以上のSaaSカテゴリーを体系的にインプットする
「機能を覚える」ではなく「部署別課題と対応SaaS」で覚える
IT調達マッチングサービスでは、営業・人事・経理・総務・情報システムなど、各部署が異なるSaaSを探しています。各部署ごとに「何の業務課題を持っているか」「その課題に対応するSaaSカテゴリーは何か」という軸でインプット資料を自作しました。
自作したインプット資料の3種類:
- 部署別SaaS一覧:営業部門・人事部門・経理部門・情報システム部門などの部署別に、どのSaaSカテゴリーが対応するかを整理。部署横断で「同じ顧客企業の複数部署にアプローチできる」視点を持つための基盤になります
- 部門別課題まとめ:各部門が共通して抱えやすい業務課題(工数の多さ・ペーパーレス化対応・複数ツールの乱立・コンプライアンス対応等)を部門ごとに体系化。顧客との会話の中で「御社の○○部門では〜という課題を感じていませんか」という仮説ヒアリングができる状態を作ります
- 法改正まとめ:電子帳簿保存法・インボイス制度・勤怠管理関連法改正など、SaaS導入の起点となる法改正をタイムラインで整理。「法改正対応が必要なタイミングだから、今検討している企業」を見つけるためのアンテナになります
この3種類のインプット資料を自作することで、「SaaSの種類を覚える」のではなく「顧客企業の業務課題とSaaSの接点を理解する」状態になりました。VOCを起点にした仮説ヒアリングが可能になり、顧客との会話の中で「御社の○○業務でいうと、〜という課題に対応できるカテゴリーになります」という個別対応の切り口が生まれます。
3. 月1,000件以上の架電量を確保するリスト自作
「割り振られたリストを消化する」から「自分で開拓するリストを作る」へ
架電量を安定して確保するためには、「割り振られたリストを消化する」という受け身のアプローチでは限界があります。月1,000件以上の架電を維持するために取り組んだのが、リストの自作です。
リスト自作のアプローチ:
比較・発注サービスに合う顧客属性(IT化に積極的・一定規模以上・特定業種・法改正対応が迫っている等)の条件を設定し、その条件に合致する企業リストを自力で作成しました。割り振られたリストと並行して自作リストへの架電を積み重ねることで、「架電できる対象が枯渇しない」状態を維持します。
リストを自作する過程で「このカテゴリーの顧客はこの業務課題を持ちやすい」という仮説が蓄積されます。蓄積された仮説は次のリスト選定にも活用でき、「自分でリストを作るほど、質の高い接触ができるようになる」というPDCAサイクルが生まれます。
4. コンペライティング分析で切り返しバリエーションを増やす
「失注トーク」と「成功トーク」を比較して差分を言語化する
IT調達マッチングサービスのインサイドセールスで最も多い失注理由の一つが、「他社の比較サービスとどう違うのか」という競合比較での離脱です。この問いに明確に答えられない状態では、アポが取れても商談後に「他社も見てから決めます」という形になります。
コンペライティングの強化のために取り組んだのが、「成功通録」と「失注通録」の比較分析です。
コンペライティング分析の手順:
- 成功通録の確認:アポが取れた、または受注につながった会話の録音を確認し、「競合との比較が出たときにどのような切り返しをしたか」「その切り返しでどのように会話が変わったか」を言語化します
- 失注通録の確認:競合比較が原因でアポが取れなかった会話を確認し、「どのタイミングで競合の話が出たか」「そのときの自分の応答がなぜ機能しなかったか」を特定します
- 切り返しバリエーションの作成:成功と失注の差分から「どのような切り返しが有効か」を複数パターン言語化し、スクリプト構築に反映します
このバリエーションを持つことで、「競合の比較サービスを使っています」という回答パターンに対して、「それは○○という観点でのお話でしょうか、それとも○○でしょうか」という形で会話の切り口を選択できるようになります。標準化・再現性のある切り返しパターンを持つことが、安定したアポ獲得率の基盤です。
5. 実践成果──1ヶ月で売上6倍・4Q特別賞受賞
IT調達マッチングサービスへのアサイン直後からの実践成果は以下の通りです(プロセルトラクション実績, 2024年度)。
月次売上推移:
| 月 | 売上 | 前月比 |
|---|---|---|
| 1月 | 130,000円 | ─ |
| 2月 | 790,000円 | 約6倍 |
| 3月 | 790,000円 | 維持 |
入社から約2ヶ月でのアサイン後、200種類以上のSaaSカテゴリーインプット資料の自作・月1,000件以上の架電維持・コンペライティングの分析と切り返しバリエーションの蓄積という3つの取り組みによって、1月から2月にかけて売上を約6倍に引き上げ、その水準を翌月も維持しました。
商材理解の難しさが特有のIT調達マッチングサービスにおいて、「顧客の部署別課題」から逆算してインプットを設計したことが、ジョイン直後の急成長を支えた要因です。
6. よくある質問
200種類以上のSaaSカテゴリーをインプットするのにどれくらい時間がかかりますか?
部署別SaaS一覧・部門別課題まとめ・法改正まとめの3種類のインプット資料を自作する形式であれば、アサイン初月の業務時間の中で並行して進められます。重要なのは「全カテゴリーを一度に覚える」のではなく、「部署別の業務課題とSaaSの接点」という構造で整理することです。構造化されたインプットは、その後の架電でも仮説ヒアリングの土台として活用できます。
リスト自作は割り振られたリストと並行して行うべきですか?
はい、並行して行うことを推奨します。割り振られたリストだけに依存すると、架電対象が枯渇した際に行動量が落ちます。自作リストを並行して準備することで「架電できる対象が常にある」状態を維持できます。また、リスト自作の過程で蓄積される顧客仮説が、割り振りリストへのアプローチの質も向上させるという相乗効果があります。
コンペライティング分析はどのように始めればよいですか?
まず「競合比較が原因で失注した通録」と「競合比較が出ても受注につながった通録」を各3〜5件ずつ聴き比べることから始めます。成功と失注の差分を「どのタイミングで」「どんな言葉で」切り返したかという具体的なレベルで言語化し、切り返しバリエーションとして整理します。週1回のペースで通録を追加分析し、バリエーションを蓄積していくサイクルが効果的です。
7. まとめ──SaaS比較サービスのインサイドセールスでジョイン直後に成果を出す3つの設計
IT調達マッチングサービスのインサイドセールスにアサインされた直後に成果を出すための実践手法をまとめます。
部署別・課題別のSaaSインプット設計:
- 「SaaSの機能」ではなく「部署別業務課題×対応SaaSカテゴリー」という軸でインプット資料を自作する
- 法改正タイムラインを整理し、「導入検討タイミング」にある顧客を見つけるアンテナを持つ
リスト自作で架電量を安定させる:
- 割り振られたリストへの依存から脱し、顧客属性条件を設定してリストを自作する
- リスト自作の過程で蓄積される仮説を次のリスト選定に活用するサイクルを作る
コンペライティング分析で切り返しを増やす:
- 成功通録と失注通録を比較して「何が差を生んでいるか」を言語化する
- 切り返しのバリエーションを複数持ち、競合比較が出た際の会話の選択肢を増やす
これらの設計を組み合わせることで、ジョイン直後の1ヶ月で売上を6倍に引き上げ、その水準を翌月も維持する成果を実現しました。
この記事の執筆者
長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役
リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。200を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。







