最終更新: 2026年6月

インサイドセールスの信頼回復設計とは、成果未達によるクライアント関係の悪化を即成果の積み上げで回復する営業立て直し手法です。

インサイドセールスの現場で「炎上」という状態に陥るのは、成果が出ないまま時間が経過した結果です。クライアントとの信頼が消失した状態では、「どれだけ頑張っている」という定性的な主張は通じません。信頼を回復するためには、「即成果を出す」という定量的な事実を積み上げ続けるしかありません。KPI設計・仮説検証からPDCA実行まで一気通貫で支援する株式会社プロセルトラクションにて4Q準MVP賞を受賞した担当者の実践事例から、不動産業界向けサービスの営業において、固定報酬での契約が炎上し取引停止の危機に直面した状態から、toBとtoCの複合訴求による即受注設計・架電効率化・テレアポメンバーへの毎日フィードバックという3つの取り組みで、受注率50〜70%を維持しながらクライアントとの信頼関係を回復した手法を解説します(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

1. 「炎上」状態から脱するために直視すべき2つの問題

「成果が出ない」の裏にある「関係構築の失敗」

不動産業界向けサービスの営業プロジェクトで直面していた状況は次の通りです。

  • もともと固定報酬の契約であったが、先方の期待に見合った成果やアウトプットを出すことができなかった
  • 炎上状態となり取引停止の危機が生じたが、成果報酬に切り替えることで何とか契約を継続してもらえた

この状態を正確に分解すると、2つの問題が重なっていたことが分かります。

問題1:先方の期待に沿った成果が出ていなかった

受注数が目標に届かない状態が続いていました。単に数字が足りていないというだけでなく、「どうすれば数字が出るのか」の打ち手が見えていない状態でした。

問題2:クライアントとの関係構築ができていなかった

成果が出ていないにもかかわらず、クライアントとのコミュニケーションが機能しておらず、課題の共有・改善の合意形成・進捗の可視化が行われていませんでした。

この2つの問題を解決する課題として設定したのが、「クライアントとの関係回復=即成果を創り出すこと(受注数増加+架電の効率化)」と「テレアポメンバーの数値の向上」でした。

2. toBとtoCの複合提案で即受注率を引き上げる

「会社にとってのメリット」と「決裁者個人の生産性」を両立させる訴求設計

受注率を短期間で引き上げるために見直したのが、提案の訴求設計です。一般的なtoB営業は「この会社にとってどんなメリットがあるか」という視点で提案を組み立てます。しかし、これだけでは決裁者の心が動くかどうかに個人差が出ます。

toCのような提案とは、「この会社にとってプラスになる面はもちろん、決裁者個人にとってどんな生産性が生まれるかをイメージさせる」という視点を加えることです。

toBとtoCを複合させた提案の設計:

  • 会社視点(toB)の訴求:このサービスを導入することで、会社として何が変わるか。コスト削減・業務効率化・売上向上など、組織として説明責任を果たせる合理的な根拠を提供します
  • 個人視点(toC)の訴求:この決裁者個人にとって、何が楽になるか・時間が生まれるか・評価につながるか。「会社のため」だけでなく「自分にとっても意味がある」という動機を引き出します

決裁者への直接アプローチを前提として、この複合訴求を設計することで「即受注率UP」を実現しました。組織への提案と個人への訴求を分けて行うのではなく、1回の会話の中で自然に両方の観点に触れることが重要です。スクリプト構築においても、toB訴求とtoC訴求の両方を組み込んだ設計が標準化・再現性のある受注率向上につながります。

3. 業種別コアタイムの把握で架電効率を最大化する

「いつかける」で接続率とアポ率が変わる

受注数を上げるためには、「提案の質」だけでなく「提案の機会の数」も必要です。架電の機会を増やすためにアプローチしたのが、「いつ架電するか」の設計です。

商談や架電を重ねていくと、業種や案件ごとに「担当者がどの曜日・どの時間帯にいることが多いか」「何曜日なら時間がありそうか」という傾向が分かってきます。

コアタイム把握による架電設計:

  • 接続しやすい時間帯を業種別・案件別に蓄積して把握する
  • 架電をコアタイムに集中させることで、同じ件数の架電でも接続率とアポ率が上がる
  • コアタイム外の架電は必要最小限にとどめ、移動・準備・フィードバックの時間に充てる

「とにかく多く架電する」という行動量志向から「接触効率を最大化する設計に基づいて架電する」という質志向への転換が、架電効率化の核心です。VOCから得られた顧客行動パターンをKPI設計に反映させることで、PDCAの精度が向上します。

4. 毎日通録を一緒に聞くフィードバックでテレアポメンバーの数値を底上げする

「どのタイミングで改善すべきか」を通録から見つける

テレアポメンバーの数値を短期間で引き上げるためには、「どうすればアポが取れるか」を言葉で説明するだけでは不十分です。メンバーそれぞれの癖・案件によって通用する話し方・会話の温度感を、実際の会話録音から確認して、タイムラインに沿ったフィードバックを行うことが必要です。

毎日の通録フィードバックの設計:

  1. 通録を一緒に聴く:毎日の振り返りの場で、メンバーが実際に行った架電の録音を一緒に聴きます。批評するのではなく「どのタイミングで何が起きているか」を一緒に確認する作業として設計します
  2. 改善ポイントをタイムラインで特定する:「このタイミングで声が下がった」「ここで間が空きすぎた」「この質問の順番が逆だった」という形で、改善の必要な「箇所」を通録上で特定します。「全体的に改善しましょう」ではなく「この部分を変えましょう」というピンポイントのフィードバックが行動変容につながります
  3. 翌日の架電で一点だけ変える:フィードバックを受けて、翌日の架電で変えるのは一点だけに絞ります。複数を同時に変えようとすると何が効いたかが分からなくなるため、改善の検証が行いやすい1点集中が効果的です

5. 実践成果──受注率50〜70%維持・アポ率2倍・固定報酬への復帰

不動産業界向けサービスの営業プロジェクトでの実践成果は以下の通りです(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

個人成果:

  • 受注率:初月から一貫して50〜70%をキープ
  • 炎上・取引停止危機の状態から、最短で成果を積み上げて固定報酬への復帰を実現

テレアポメンバー成果(1月→3月推移):

指標1月3月変化
アポ率6%台12%台約2倍
受注率約30%50%+20pt
アポ数8件15件約1.9倍

3月は商談化率93%を記録しました。

プロジェクト全体成果:

四半期目標実績達成率
3Q25件28件112%
4Q34件36件105%

成果報酬から固定報酬への復帰という結果は、「信頼を取り戻した」という評価の最も明確な形です。toBとtoCの複合訴求・架電効率化・毎日の通録フィードバックという3つの取り組みが重なって、数字として信頼回復の証拠を積み上げた結果です。

6. よくある質問

toBとtoCの複合提案はどのように1回の会話に組み込みますか?

まず会社視点のメリット(コスト削減・業務効率化等)を提示し、その流れの中で「○○様ご自身にとっても、〜という形で業務の効率化につながります」という個人視点の訴求を自然に加えます。分けて説明するのではなく、「会社のメリット→だからあなた個人にもこう活きます」という一つの流れとして設計することがポイントです。

通録フィードバックは毎日実施する必要がありますか?

短期間で数値を引き上げる必要がある場合は、毎日の実施を推奨します。毎日フィードバックすることで、翌日の架電ですぐに改善を検証でき、改善のスピードが上がります。数値が安定してきた段階では、週2〜3回に頻度を下げることも可能です。重要なのは「1回のフィードバックで一点だけ変える」という原則を守ることです。

炎上状態からの信頼回復にはどれくらいの期間がかかりますか?

本事例では、成果報酬への切り替え後、3ヶ月間で受注率50〜70%を維持し続けたことで固定報酬への復帰を実現しました。信頼回復には「即成果を出す」ことが最も重要です。言葉での説明や改善計画の提示ではなく、定量的な実績を毎月積み上げ続けることが、クライアントの信頼を取り戻す唯一の方法です。

7. まとめ──炎上状態からの信頼回復を実現する3つの設計

クライアントとの関係が悪化した状態から信頼を回復するための実践手法をまとめます。

toBとtoCの複合提案設計:

  • 「会社にとってのメリット」と「決裁者個人の生産性向上」を1回の会話の中で自然に両立させる
  • 決裁者への直接アプローチを前提として、個人の動機と組織の合理性を複合的に訴求する

架電効率化のコアタイム設計:

  • 商談・架電の積み重ねから業種別・案件別の接続しやすい時間帯を把握する
  • 架電をコアタイムに集中させることで接続率・アポ率を向上させる

毎日の通録フィードバック:

  • 毎日振り返りの場でメンバーの通録を一緒に聴き、改善ポイントをタイムライン上で特定する
  • フィードバックは一点集中にして翌日の架電で検証するサイクルを維持する

「信頼回復は即成果しかない」という認識のもとで設計された3つの取り組みが、テレアポメンバーの数値底上げとプロジェクトの連続達成を同時に実現しました。

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この記事の執筆者

長谷川裕樹

長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役

リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。200を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。