最終更新: 2026年6月

製造業向けインサイドセールス設計とは、アナログ・縦割り型の製造業組織に対して新カテゴリーサービスを提案するための仮説構築・キーマン特定・引き継ぎ精度を最適化する営業手法です。

製造業に対してデジタルツールや新しいサービスを営業する際に直面する壁は、他の業界よりも多く・深いものです。「顧客が課題に気づいていない」「キーマンが組織のどこにいるか分からない」「工場内の実態が見えない」という3重の壁が重なって存在するからです。これらを突破するためには、訪問前から「仮説を立て・現場で検証する」サイクルを意図的に設計する必要があります。

株式会社プロセルトラクションの2024年度4Q準MVP賞を受賞した担当者B氏の実践事例から、製造業向け自販機型間接材管理サービスの営業において、顧客の潜在課題ヒアリング・キーマン特定・AI活用による製造現場理解・引き継ぎ精度の向上・タスク管理という5つの課題を突破し、リスト回収目標13.5件に対して実績18件(達成率133%)を実現した手法を解説します。

この記事の目次

製造業向け新カテゴリーサービスが抱える5つの特有の難しさ

「アナログ×縦割り」の組織構造が生む営業上の壁

製造業向けの自販機型間接材管理サービス(工場で使うマスク・手袋・テープ・ウエスなどの消耗品をVMI自販機で一元管理するサービス)の営業には、一般的なインサイドセールスとは異なる5つの固有の難しさがあります。

  1. 顧客が気づいていない課題: 消耗品管理工数の削減に取り組んできた企業が少なく、「緊急でないが重要な課題」として認識されていない
  2. キーマンへの到達に時間がかかる: 工場は部署が複数存在し、ピラミッド型×縦割り型の組織構造の中でキーマン(商流切り替え・自販機導入の決済権限者)の所属部署が工場ごとに異なる
  3. 製造現場の実態が見えない: 工場内の在庫管理の仕組みや使用している消耗品の種類・量が、訪問前には把握できない
  4. 引き継ぎ精度が求められる: 初回訪問から商品リスト回収・精査・引き継ぎまでを担い、その後の提案交渉・契約はクライアント側が担当するため、引き継ぎの情報精度が成約率に直結する
  5. 営業工程のタスクが多い: テレアポ・事前準備・商談・商談記録・追客・リスト回収・精査・クライアントとの連携と、1案件あたりのタスクが多い

この5つの課題に対して、それぞれ具体的な解決設計を行いました。

壁1:顧客が気づいていない課題を顕在化させる3段階のヒアリング設計

「それ言われてみれば課題だわ」と気づかせるノウハウ構築

消耗品管理の工数削減は、「緊急ではないが重要な課題」です。顧客が自ら気づいていない状態でサービスの機能説明を行っても、「今は大丈夫です」という返答になります。

課題を顕在化させる3段階のアプローチ:

  1. ヒアリングによるデータストック: 各顧客から消耗品管理に関する業務状況をヒアリングして記録する。「現在どのように管理しているか」「1回の発注にどれくらい時間がかかっているか」という現状把握の会話から、課題の種を引き出す
  2. 事例・仮説による課題提示: ヒアリングで得た情報をもとに、「他社の工場では〜という課題が生じているケースが多いですが、御社では如何でしょうか」という形で想定される課題を提示する。押し付けではなく「顧客に考えてもらう」切り口が重要
  3. 解決策の説明でサービス力を検証: 課題への共感が生まれた状態で解決策(自販機型管理)を説明することで、「うちもそういうサービスがあれば助かる」という反応を引き出す。この会話がVOC(顧客の声)として蓄積される

壁2:キーマンを商談の場で特定する仮説起点の3ステップ

「受付にある名簿の確認」から始まる仮説起点のキーマン特定

キーマン(商流切り替え権限者または自販機導入の決済権限者)は、工場ごとに所属部署が異なります。受付や担当者から話を聞いただけでは、キーマンに辿り着けないケースも多いです。

キーマン特定の3ステップ:

  1. 事前リサーチと仮説設定: 訪問前に受付にある名簿や組織情報を確認し、「この工場のキーマンは〜部署の〜の役職にあたる可能性が高い」という仮説を立てる
  2. 商談の場で部署・氏名を紹介してもらう: 仮説をもとに、初回商談の担当者に「自販機導入の際に関わる部署と担当者の方を教えていただけますか」という形でキーマンの情報を自然に引き出す
  3. 翌日までにアポを取る: キーマンの情報が得られたら、翌日までには直接連絡してアポを獲得する。タイムラグを置くほど関係が薄れるため、スピードが重要

壁3:AI活用で見えない製造現場を事前にイメージする

ChatGPTで「工場の消耗品使用実態」を仮説設定してから臨む

工場内の在庫管理の仕組みや使用している消耗品は、訪問前には把握できません。製造現場を見てこなかった営業担当が商談に臨むと、「御社ではどんな消耗品を使っていますか」という一般的な質問しかできず、顧客との会話の深度が上がりません。

AI活用による事前仮説設計の手順:

  1. 工場情報の収集: ChatGPTを使って訪問予定の工場の業種・製造工程・規模・設備情報を収集し、文字情報から工場の実態イメージを膨らませる
  2. 消耗品・在庫管理の仮説設定: 収集した情報をもとに「この工場では〜の消耗品を〜程度使用している可能性が高い」「在庫管理は〜の方法を使っている可能性がある」という仮説を複数パターン準備する
  3. 訪問当日に仮説を投げて検証する: 準備した仮説を顧客に投げることで「それはだいたい合っています」「実は〜という点が違って」という会話が生まれる。この検証がデータストックとして蓄積され、次の商談の仮説精度が上がる

このサイクルを繰り返すことで、訪問件数が増えるほど「どの業種の工場にはどのような消耗品管理の課題がある」という知識が蓄積されます(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

壁4:クライアントが求める顧客を正確に引き継ぐための精度設計

「受け取りやすいボールの形」を事前に把握する

製造業向け自販機型サービスでは、初回訪問から推進合意・商品リスト回収・精査までは営業担当が行い、その後の提案交渉・契約はクライアント(製造業向けサービス会社)が担当します。引き継ぎの精度がクライアントの成約率に直接影響するため、「クライアントが欲しい情報の形」を把握することが重要です。

引き継ぎ精度を高める3つの取り組み:

  1. ポテンシャル高い企業の見極め: 自販機運用に適する企業(消耗品使用量が多い・複数拠点を持つ・在庫管理に人手がかかっている)を事前に特定し、質の高い引き継ぎ候補を絞る
  2. 導入意図・目的の把握と詳細共有: 顧客が自販機導入を検討する意図や目的(コスト削減・管理工数削減・在庫の見える化等)をヒアリングし、クライアントへの引き継ぎ情報に正確に含める
  3. クライアントが求める情報のヒアリング: 引き継ぎを受けるクライアント側が「どのような情報があればスムーズに提案できるか」を事前にヒアリングし、その形式に合わせて情報を整理して渡す

壁5:タスクの多い営業工程を時間管理の3原則で制御する

Googleカレンダー×ToDo管理で「1日を先に設計する」

テレアポ・事前準備・商談・商談記録・追客・リスト回収・精査・クライアントとのやり取りという多数のタスクを並行して進めるには、「何をするか悩む時間」を消すことが最優先です。

時間管理の3原則:

  1. Googleカレンダー×ToDo管理で1日を先に設計する: 予定を先に決めておくことで「次に何をするか」で悩まない。タスク漏れ防止と過去の活動の振り返りにもなる
  2. 即レス・即対応でタスクを持ちすぎない: 自分が抱えているタスクを減らすため、確認・返答が必要なものはその場で即対応する。持ち越すタスクが増えるほど管理コストが上がる
  3. 移動時間を商談振り返りに活用する: 製造業への訪問は移動時間が長くなるケースが多い。車での移動中に商談録音を振り返り、次の訪問に向けたアウトプットを行うことで、移動時間を学習・改善の時間に転換する

実践成果──リスト回収133%・競合からのアサイン入れ替えを実現

製造業向け自販機型間接材管理サービスの営業での実践成果は以下の通りです。

定量成果:

  • 個人:リスト回収目標13.5件 → 実績18件(達成率133%)※3月末まで
  • チーム:競合他社に対してチームとして数字の差をつけ、クライアントから競合3名分のアサイン入れ替え依頼を受注

定性成果(顧客・社内の評価):

  • 個人:ポテンシャルの高い企業やクライアントが戦略顧客に位置付けている企業のリスト回収を実現
  • チーム:クライアントが求める商品リストの内容精度が高く、顧客の自販機導入目的を正確にグリップしている

5つの固有の難しさに対して設計した解決策を実行した結果、リスト回収目標を33%超過しながら、チームとしてのクライアント評価を高めることにも貢献しました(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

よくある質問

製造業向け営業で顧客が課題に気づいていない場合、どのようにアプローチすればよいですか?

ヒアリングによるデータストック → 事例・仮説での課題提示 → 解決策説明の3段階で設計します。いきなりサービスの機能を説明するのではなく、まず現状の業務状況を聞き取り、他社事例を基に想定される課題を提示することで「それ確かに課題だ」と気づかせるアプローチが有効です。

製造業の営業でAIをどのように活用できますか?

訪問前にChatGPTなどのAIツールを使って訪問先工場の業種・製造工程・規模から消耗品の使用実態を仮説として準備します。仮説を商談で検証することで会話の深度が上がり、訪問件数が増えるほど仮説精度も向上するサイクルを構築できます。

製造業向け営業でキーマンを特定するにはどうすればよいですか?

事前に組織情報を確認して仮説を立て、商談の場で担当者に関連部署・担当者を自然に紹介してもらい、翌日までにキーマンへ直接連絡してアポを取るという3ステップが効果的です。タイムラグを置くほど関係が薄れるため、スピードが重要です。

まとめ──製造業向け自販機型サービスの5つの壁を突破するインサイドセールス設計

製造業という「アナログ×縦割り」の組織に新しいカテゴリーのサービスを提案するインサイドセールスで成果を出すための実践手法をまとめます。

潜在課題の顕在化:

  • 「緊急ではないが重要な課題」を顧客に気づかせるために、ヒアリングによるデータストック → 事例・仮説での課題提示 → 解決策説明の3段階で設計する

キーマン特定の仮説設計:

  • 事前リサーチで仮説を立て → 商談の場でキーマンの部署・氏名を紹介してもらう → 翌日までにアポを取るというスピード設計を徹底する

AI活用による製造現場のイメージ構築:

  • ChatGPTで工場情報を収集し、消耗品・在庫管理の仮説を複数準備してから訪問する。訪問のたびに仮説の精度が上がるサイクルを作る

引き継ぎ精度の設計:

  • ポテンシャルの高い企業を見極め・導入目的を正確に把握・クライアントが求める情報形式でパスするという「受け取りやすいボールの形」を先に把握して動く

タスク管理の時間設計:

  • Googleカレンダー×ToDo管理で1日を先に設計し、即レス・即対応でタスクを持ち越さず、移動時間を商談振り返りに活用する

この記事の執筆者

長谷川裕樹

長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役

リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。200を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。