最終更新: 2026年6月

BANT案件精査とは、Budget(予算)・Authority(決裁者)・Needs(必要性)・Timeline(時期)の4軸で商談案件の確度を判定し、優先順位をつけて効率的にクロージングする営業手法です。

受注単価が低い状態での目標達成と、新人育成業務の同時対応は、多くのセールス担当者が直面する二重の課題です。「単価が低いから件数を増やすしかない」という構造と「新人のサポートに時間を使うと自分の数字が作れない」という時間的な制約が重なると、どちらも中途半端になるリスクがあります。KPI設計・仮説検証からPDCA実行まで一気通貫で支援する株式会社プロセルトラクションにて準MVP賞を受賞した担当者の実践事例から、受注単価を引き上げながら新人のサポートも両立し、四半期で160%達成・全メンバー中売上1位を実現した手法を解説します(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

受注単価が低い状態での目標達成が難しい2つの構造的課題

「件数で帳尻を合わせる」設計の限界

某サービス企業の新規営業チームにおいて、以下の構造的な問題がありました。

営業全体の一人当たり生産性目標に対して、新規チームの売上目標は低めに設定されていました。これはアップセルチームが売上の大部分を担っている状態で、新規チームが単価の低い案件を量で積み上げなければ目標に届かない設計になっていたためです。

1件あたりの受注単価が低い状況では、件数を増やすだけでは目標に到達しないという数学的な限界がありました。さらに4月から新人担当者のアサインがあり、新人育成業務も並行して行う必要が生じました。

解決の方向性

この状況に対して、以下の2つの方向性で課題を解決しました。

  1. 受注単価を引き上げる:同じコール数・同じ件数でも、1件あたりの受注金額を大きくすることで目標達成を可能にする設計
  2. 新人育成を「他力」で設計する:自分一人で新人を見ようとせず、複数名でサポートする体制を作ることで自身の行動量を確保する

個人達成のための2つの取り組み

取り組み1:受注時に「最大値」で引っ張る──大型案件を増やす姿勢

受注単価を上げるための最も直接的な取り組みは、「受注時にクライアントから引き出せる最大値で受注する」という姿勢の徹底です。

受注単価が低い状態は多くの場合、「クライアントが提示した件数・量をそのまま受け入れてしまう」という受動的な受注パターンが原因です。クライアントの状況を踏まえた上で、「この規模であれば週2回の対応が適切ではないでしょうか」という形で、クライアントが本来必要とする量を積極的に提案します。

この転換を繰り返すことで、件数は変わらなくても月間売上が大幅に増えます。

取り組み2:商談前に見積もりを事前作成する

成約率を上げるためのもう一つの取り組みが、「商談前に情報を取得し、見積もりを事前に作成しておく」という準備です。

通常の商談フローでは、「商談でヒアリング→後日見積もりを送付→再商談→受注」という流れが多く、受注までに時間がかかります。商談前に情報を調べた上で事前に見積もりを作成しておくことで、商談の場で「こちらで試算した見積もりを持ってきました」という提示ができます。

クライアント側は、商談の段階で「実際にいくらかかるのか」というイメージを持てない状態にあります。事前見積もりを持参することで、「この金額でこのサービスが受けられる」という具体的なイメージが商談の場で完成します。「イメージができた状態」でのクロージングは成約率が大幅に向上します。

新人育成を「他力」で設計する2つの仕組み

一人で新人を見ようとしない──複数名サポート体制の構築

新人担当者のサポートにおいて、陥りやすい失敗が「自分一人で全部見ようとする」ことです。一人で新人をサポートしながら自身の数字も作ろうとすると、どちらも中途半端になるリスクがあります。

新人一人に対して、複数名(担当者2名)でサポートする体制を構築することで、以下の2つの効果が生まれます。

  • 自身の行動量を確保できる:新人からの質問が来た際に、もう一人のサポート担当者が対応できるため、自分が架電中・商談中でも新人の業務が止まらない状態を作れます
  • 新人への回答の質が上がる:1人のサポートでは担当者の知識・経験に限界がありますが、複数名でサポートすることで、「自分が答えられない質問」に対して別の担当者が対応できます

BANT情報によるヨミ出し──少ないネタで達成に導く案件精査

新人育成において、単にサポートするだけでなく「確度の高い案件を優先的にアプローチする」という案件精査の習慣を早期に身につけさせることが重要です。

新人担当者の手持ち案件について、定期的にBANT情報を確認します。

  • B(Budget/予算):クライアントの予算感が確認できているか
  • A(Authority/決裁者):意思決定者と接続できているか
  • N(Needs/必要性):クライアント自身がサービスの必要性を認識しているか
  • T(Timeline/時期):導入を検討している時期が明確になっているか

これらの情報を確認した上で、「どの案件が今すぐアプローチすべき高確度案件か」を判断し、ネクストアクションを具体的に指示します。手持ち案件の件数が少ない状態でも、案件の優先順位を精査することで達成に導けます。

実践成果──四半期160%達成と全メンバー売上1位

某サービス企業の新規営業チームでの実践成果は以下の通りです(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

達成率
3月55%
4月110%
5月90%
6月280%
四半期合計160%

6月には、複数のセグメントチームと他社担当者を含む全メンバーの中で売上実績1位を達成しました。

また、サポートを担当した新人担当者が初月103%を達成し、「新人が初月から目標達成できる育成環境」の構築も実現しました。

よくある質問

受注単価を上げるために最初にやるべきことは何ですか?

まず「クライアントが提示した件数・量をそのまま受け入れていないか」を確認します。多くの場合、クライアントの最初の依頼量は控えめに設定されています。クライアントの状況を踏まえて「この規模であれば○○件が適切です」と積極的に提案する姿勢に切り替えることが最初のステップです。

BANT情報のヨミ出しはどれくらいの頻度で行うべきですか?

新人担当者に対しては、最低でも週1回のヨミ出しを推奨します。手持ち案件が少ない新人ほど、1件1件の確度判断が達成率に直結します。BANTの4項目を確認し、高確度案件のネクストアクションを具体的に決めることで、限られたネタから最大の成果を引き出せます。

新人育成と自身の目標達成を両立するコツはありますか?

最も重要なのは「一人で全部見ようとしない」ことです。新人一人に対して複数名でサポートする体制を構築することで、自身の行動量を確保しながら新人の業務も止めない状態を作れます。また、新人への指導時間を「ヨミ出し」に集中させることで、短時間で効果的な育成が可能になります。

まとめ──受注単価向上と新人育成の両立は「設計」で解決できる

受注単価が低い状態での目標達成と新人育成の同時対応を実現するための実践手法をまとめます。

受注単価を引き上げる取り組み:

  • 受注時はクライアントから引き出せる最大値で受注することを意識し、大型案件を増やす
  • クライアントの状況を踏まえて積極的に提案する
  • 商談前に情報を取得し見積もりを事前作成することで、商談の場でクロージングまで完結させる

新人育成を効率化する取り組み:

  • 新人一人に対して複数名でサポートする体制を構築し、自身の行動量を確保する
  • BANT情報を元に定期的にヨミ出しを実施し、確度の高い案件へのネクストアクションを具体的に指示する
  • ネタが少ない状態でも、案件の優先順位を精査することで達成に導く

これらの設計を組み合わせることで、個人の目標達成と新人育成の両立が実現できます。

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この記事の執筆者

長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役

リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。100を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。