営業組織強化のための方法として、日本でもセールスイネーブルメントの考え方が注目されるようになりました。
セールスイネーブルメントとは、ツールの開発・導入・プロセス管理・分析など営業に関するあらゆる「施策を設計・管理・分析する」ことです。
アメリカでは、すでに当たり前のように取り入れられているセールスイネーブルメントが日本でも注目されてきたのには営業の効率化や人材不足なども背景にあると言われています。
セールスイネーブルメントの効果、メリットや活用方法などを詳しく説明します。導入に向けて、自社が解決したい営業上の課題をイメージしながら、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
セールスイネーブルメントの概要
最初に、セールスイネージブルメントの定義や特徴を解説します。
基本を押さえることで、セールスイネージブルメントがどのようなものかイメージしやすくなります。
セールスイネーブルメントは「育成の仕組み」
セールスイネーブルメントは「営業人材を育成する仕組み」と定義されます。イネーブルメントは英語で「有効にする」などの意味です。
起源は諸説ありますが、セールスイネージブルメントが一般的に知られるようになったのは、2010年代初期と言われます。
営業パーソンの育成は昔から課題とされてきました。成果の出る営業を真似る、繰り返しトレーニングを行うなどが単発で行われてきましたが、時間がかかるうえ再現性が低いなどの悩みも尽きませんでした。
セールスイネーブルメントでは次のような取り組みを行います。
- 組織の営業活動を可視化し、営業能力アップを促す
- 成果のよい営業パーソンの行動や思考を細かく共有化する
- あらゆるプロセスの実践トレーニングを行う
- 個別にトレーニングやコーチングを実施する
セールスイネージブルメントは、営業の本質ともいえるものであり、将来的にますます必要性が高くなると予想されています。
セールスイネーブルメントの具体策と特徴
セールスイネーブルメントを実施する際には、専属の部署を設置します。複数のチームが存在する場合、専属部署が管理をして足並みをそろえるのが狙いです。
セールスイネーブルメントの具体策を考える際には、以下のように営業のフェーズごとにやるべきことを落とし込みます。ポイントは、ゴールから逆算していくことです。
営業のゴールは「成果」
営業目標の数値を、毎月あるいは期ごとで管理していることが多いでしょう。目標の達成に重要なのは、リアルタイムな数値管理です。
営業支援ツールなどを用いて、目標の達成状況をチーム全員で共有できるようにしましょう。
目標達成のための行動量を管理
目標達成に対する必要商談数やテレアポの荷電数などを設定します。
行動の数値が足りていないときは、なぜ不足したのかの原因を特定して、アクションが増えるように対策します。アクション量が十分でも、営業数字が伸びない場合は、歩留まりの悪さの原因を追究して分析・対策をおこないます。
必要な知識とスキルを洗い出して管理
営業スキルは、成果の上がっている営業担当者の行動モデルや知識を参考にして、データを作成すると効率的・効果的です。
営業の流れやスキルを一連にとらえて、成果アップのために必要なポイントを明確すると、対策もスムーズになるでしょう。
セールスイネーブルメントが用いられる場面
セールスイネーブルメントは、営業全般に関して適用できる考え方です。
とくに相性がよいのは、BtoB営業とされます。それはBtoB営業においては受注に至るまでの営業活動期間が長期化する傾向があり、分析すべき工程が多いためです。
また、SaaS営業のようにサブスクリプションモデルのセールスでは、契約後も契約維持の営業活動が必要となります。ここでも継続率アップのためには成功率の高い手法を確立したいはず。
営業活動を管理するうえでとくに以下の2項目は不可欠な視点です。
- 営業担当者のどの行動が受注につながり、どの行動が失注を招いたのか?
- 現在の見込み案件はどのような段階にあり、いつごろの受注を見込めるか?
セールスイネーブルメントの考え方を導入することで、これらの管理が容易に行えるようになります。
セールスイネーブルメントが注目されている背景
すでに説明したように、セールスイネーブルメントの考え方は2010年にはありました。海外では日本よりも早くセールスイネーブルメントの考え方が浸透しています。
ただし2020年までは、日本の一部先進的な企業でしか注目されていなかったのが実態です。ここにきて急速にセールスイネーブルメントの導入企業が増加した理由を考えてみます。
新たなマーケティング理念が取り入れられるようになった
競争が激化するグローバル経済において、以前より多くの国内企業がマーケティングを重視するようになったと言われます。比較的適応が遅かった一部の製造業でもプロダクトアウトからマーケットインへの転換が進んだのがこの10年ほどでしょう。
従来の個別型営業では、個人の能力に依存し、営業成果が安定しないという課題もありました。最新のマーケティング理論を導入することにより、営業を科学的にとらえようとする考え方が広まったのはこうした背景があると考えられます。
技術やITネットワークの進化
ITネットワークやスマートフォンの発達により、場所を選ばずにスムーズに通信し、コミュニケーションできるようになりました。
セールスフォースやグループウェアなど、リアルタイムに情報の共有・管理ができるツールが登場し、機能が拡張したことで、営業に関する複雑なデータも誰でも簡単に管理可能に。
科学的な営業に欠かせない営業データを収集できる仕組みができあがり、データドリブンな営業判断が容易になったのです。
ツール機能を持てあましていた
SFAやMAツールを導入した企業の中でも、一部の機能しか活用できておらず、導入費用や毎月の利用料に見合った使い方ができていない企業があったと言われます。おそらく今も少なくないでしょう。
セールスイネーブルメントを導入すると、仕組上、SFAやMAツールの機能をフルに活用することになります。その結果、売上への好影響も期待できます。
自社のリソースを最大限に活用するためにも、セールスイネーブルメントはとても効果的です。
プロセルトラクションがセールスイネーブルメントの取り組みをサポート
この記事でセールスイネーブルメントの概要は説明していますが、それを自社に当てはめることはかんたんではありません。そこでプロセルトラクションではあなたの会社にマッチしたセールスイネーブルメントの導入から具体的な取り組みまでサポートしています。
セールスイネーブルメントに取り組むメリット
ここまで、セールスイネーブルメントがなぜ受け入れられてきたかを説明しました。
そもそも営業管理は難しい課題であったこと、技術発展により可視化の仕組みができたこと、企業側の「営業の安定化ニーズ」が高まったことなどが背景にありました。
ここからは、セールスイネーブルメントの導入メリットについて掘り下げて、3点ご紹介します。
営業スキルの標準化が可能
セールスマネージメントに取り組む上で最大のメリットは、営業スキルの標準化を実現できること。
営業スキルの標準化とは、営業のスキル・技術を属人的なものとせず、社内のメンバー全員が同じ基準のもとで行動する、また営業できるようにスキルを習得することを指します。エース営業パーソンのスキルを真似しても再現性が低いことは多くの営業組織の課題でした。
セールスイネーブルメントでは、社内のトップ営業パーソンのスクリプト共有が容易で、経験の浅いメンバーの課題が明確になります。そのため標準化のためのロードマップを共有化しやすく、標準化の進行状況も数値化できます。
施策ごとの成果の可視化
セールスイネーブルメントに取り組むと、営業フロー別の数値やコンバージョンも細かく管理できます。
仮にこうした管理がない状態で、ある月の見込み顧客創出数が前月よりも1.5倍になったとき、何が奏功したかを特定できません。効果的だった策が分からなければ再現性を持たせるのも困難です。
- テレアポの架電件数が増えたから?
- テレアポの質が向上したから?
- 展示会の来訪者から多く問い合わせがあった?
- インターネット広告のキーワードを見直したから?
セールスイネーブルメントにもとづいて、一つひとつの営業の指標をきちんと管理していれば、どの策が最も成果につながったか明確になります。危険なのは数字を確認せずに「たぶんテレアポがよかったのだろう」などと思い込むこと。
また当然、ポジティブな結果を生む施策をブラッシュアップするとともに、成果の出なかった策を見直しできます。
全体最適化による組織力の強化
専門部署で営業活動全般を流れで管理した結果、組織全体の営業力強化が期待されます。
「標準化」はボトムアップのイメージですが、こちらは組織全体がレベルアップするイメージです。
セールスイネーブルメントで一連の流れが可視化された後のリード獲得を例にしてみましょう。マーケティング部がリードを獲得する際も、最終的な営業数字に転化されるかを意識できるようになるでしょう。獲得件数だけにこだわって質の悪いリードに気を取られることも減るはずです。
セールスイネーブルメントによって、ゴールから逆算した行動やスキルを計算することで、チーム間の連携もアップし、全体のスキルも向上が見込めます。
セールスイネーブルメントの注意点
セールスイネーブルメントは、理にかなった営業活動をするために大いに役立つことでしょう。
ただし、理念がなくして形だけセールスイネーブルメントを導入して失敗するケースもあります。どんなデメリットや懸念点があるのかも解説します。
導入コストがかさむ懸念
セールスイネーブルメントに必要な管理をおこなうためには、一定の費用がかかります。
費用項目は、以下の通りです。
- セールスイネーブルメント・セールスフォースなどのソフトウェア費
- ネットワーク構築のための費用
- 人件費
セールスイネーブルメント導入には、現状の業務の棚卸やツールの初期設定など費用と、人的パワーがかかります。専属部署をつくる際には、部署作成や備品の注文などのための経費もかかるでしょう。
ありがちなのはセールスイネーブルメントの導入と部署の設置はがトップダウンで決まるものの、理念がないパターンです。この場合、構築にも時間がかかり、導入したさまざまなツールがオーバースペックなど、コストばかり増える恐れがあります。
導入期に社内の負担を軽減しようとコンサルを入れる、データベース構築をアウトソーシングする方法もありますが、これも同じくセールスイネーブルメントを通じて何を実現したいかが不明確ではムダ金になるかもしれません。
予算上限とともに、概念を決めておくべきでしょう。
現場が戸惑い生産性が落ちる
導入時には営業現場でトラブルや戸惑いが生じることもあります。日常の業務をまわす上では、新たに「導入に協力する」ために余計な業務も発生するでしょう。
たとえば顧客のデータベースを統一化するなら、各部署で管理していたデータベースのメンテナンスなどです。一時的に営業の生産性が落ちることも想定されます。
従来の方法で成果が出ているチーム・企業やベテラン社員などの反発はよくある話。経営幹部や営業トップがリーダーシップを発揮できるか否かが、セールスイネーブルメントの成否を大きく左右します。
単体の数値を見るのは避ける
営業の成果はさまざまな指標が複雑に絡み合ってできています。
それでも単体の指標だけを見て判断しようとする人がいます。そのほうが分かりやすい、判断しやすいからでしょう。
幸い、セールスイネーブルメントツールやセールスフォースなどのツールを導入すれば、多くの複雑なデータを活用できるようになります。なおさら専門部署を設置して、情報を深く分析して「やってみせる」ことが重要です。
セールスイネーブルメントの具体的な事例
セールスイネーブルメントの具体的な取り組み事例・成果を解説します。
厳密には、セールスイネーブルメントは企業の営業を総合的に判断することになるため、情報をかいつまんで説明するのは難しい概念です。基本的なエッセンスのみに絞ってご紹介します。
ケース1:人材教育会社
人材教育関連業のA社では、コールセンターの対応力に問題を抱えていました。
マニュアル通りの案内や簡単な問い合わせに対応することはできても、難しい質問をされた際には、回答につまってしまうオペレーターが多かったため同社はインサイドセールス分業を決定。テレアポの成約率の向上や、カスタマーサポートの品質向上を図ったのです。
さらにで営業開発室の部長がチームを組んでセールスイネーブルメントに取り組み、結果的に営業効率を飛躍的に向上させます。
依然として残っていた「臨機応変な対応が苦手」という問題の解決のため、社員全員の情報共有できるシステムを導入しました。また、共有した情報のポイントや改善点をメンバー同士でシェアし合うことで全員のスキルが向上したということです。
ケース2:証券会社
証券会社B社では、1,000名いる営業社員の知識レベルの統一化と効率的な学習が課題でした。
セールスイネーブルメントツールを導入し、営業活動に必要な知識・スキルをすべて洗い出し、以下のように対応。
- 営業一人ひとりが持つべき営業スキルを、e-ラーニングのプログラムに落とし込み、いつでも受講できるように配信
- 営業の際に必要な資料・書類を全社で統一化し、いつでも閲覧できるように対策
- 顧客のニーズを即時吸い上げ、ツールを使って全営業スタッフに共有
上記の対策を取ることで、営業スタッフのスピード感や知識レベルが格段に向上しました。
また、顧客からの要望に対するリアクションがスピーディーになりました。
セールスイネーブルメントは業績向上に貢献する
セールスイネーブルメントは、科学的に営業をおこなうための理念・考え方の一つです。
営業管理の考え方自体は新しいものではありませんが、近年のITツールの技術開発などにより、どの企業でも高精度にセールスイネーブルメントを実現できるようになりました。これによって営業人材が育成され続ける仕組みを構築
営業チームの課題解決や生産性向上のために、ぜひセールスイネーブルメントのツールや考え方を活用していただけたら幸いです。
プロセルトラクションがあなたの営業活動をサポートします
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