最終更新: 2026年6月
クリニック商談の事前調査設計とは、医療機関ごとのHP・口コミ・地域データを商談前に調査し、個別提案の精度を高めることで決定率を安定させる営業手法です。
医療機関(クリニック)向けサービスの営業において、「決定率が月によって安定しない」「どの数字を優先すべきかメンバーに浸透していない」という状態は、個人の担当者スキルに依存した属人的な営業体制の典型です。チームとして安定した成果を出し続けるためには、「商談前の調査設計」と「チームの朝会設計」という2つの非属人的な仕組みが必要です。KPI設計・仮説検証からPDCA実行まで一気通貫で支援する株式会社プロセルトラクションにて準MVP賞を受賞した担当者の実践事例から、医療機関向けサービスの営業において決定率50%以上を安定維持しながら連続達成を実現した手法を解説します(プロセルトラクション実績, 2024年度)。
この記事の目次
1. 決定率の不安定が続く状態の構造的課題
「型がない商談」が月次変動の原因になる
医療機関向けサービスの営業チームで直面していた状況は以下の通りです。
- 全体の決定率が月によって大きく変動し、安定していない
- どの数字を優先的に追うべきかが、メンバーに明確に共有されていない
- 商談の型がないため、担当者のその日の状態や経験値に成否が依存している
この状況が生み出す問題は2つです。商談の型がないため決定率が安定しないこと、そしてメンバーが全体の数字を把握できていないため、チームとして動く意識が生まれないことです。
解決の方向性──「型」の設計で属人性を排除する
これらを解決するためには「個人の努力・経験・センス」に依存する属人的な施策ではなく、誰が実施しても一定の成果が出る「型」の設計が必要です。
- 商談事前準備の型化:クリニックごとの状況を事前に把握し、個別提案ができる状態で商談に臨む
- チーム朝会の構造改革:「聞くだけの朝会」から「当事者意識を持った朝会」へ転換し、チーム全員が目標を意識して動く状態を作る
2. 商談事前準備の3ステップ──個別クリニックへの理解を深める
ステップ1:HPからクリニックの現在のオペレーションを把握する
面談前に必ず確認すべき最初の情報源がクリニックのホームページです。インサイドセールス代行の現場でも、事前のHP調査は商談品質を決定づける基本動作として位置づけています。
HPから確認すべき2点:
- 決済方法:現金のみか、クレジットカードや電子マネーが使えるか
- 予約手段:電話予約のみか、ネット予約やアプリ予約が導入されているか
これらの情報を事前に把握することで、「このクリニックは現金決済のみなので、キャッシュレス導入による患者利便性向上を訴求できる」「予約はネット対応済みなので、会計待ちの課題に特化した提案が刺さる可能性がある」という形で、商談前に提案の方向性を設計できます。
HPから把握した現状オペレーションをもとに課題を想定しておくことで、商談中にクリニックからの要望や課題点に対して即座に適切な回答ができます。「一般論ではなく、このクリニックに対して提案してくれている」という信頼感が、決定率向上につながります。
ステップ2:口コミから患者の声を把握する
クリニックの口コミ(Googleマップ等の患者レビュー)は、院長が商談の場で直接口にしない潜在的な課題を把握するための重要な情報源です。
口コミから把握できる情報:
- 「会計が遅い」「待ち時間が長い」という患者からのフィードバック
- 「支払い方法が現金のみで不便」という声
- 「受付の対応が良い・悪い」という患者体験に関する評価
クリニック側は患者からこれらのフィードバックを直接受けていることが多くても、商談の場でわざわざ「うちは会計待ちが課題で」とは話しません。口コミを通じて「患者から客観的に見えている課題」を事前に把握し、商談のヒアリングや提案に組み込むことで、院長に「自院の課題を理解した上で提案してくれている」という印象を与えられます。
ステップ3:地域の平均患者数と施設規模から待ち時間課題を推定する
3つ目の事前調査が、地域の平均患者数とクリニックの物理的な規模を組み合わせた、待ち時間課題の推定です。
地域の平均患者数(診療報酬データや地域の医療統計)を調べた上で、面談先クリニックの駐車場面積や待合室の広さ(HPの写真や口コミ情報から推定)を確認します。
- 患者数が多い地域にもかかわらず、待合室が狭いクリニック → 待ち時間・混雑が発生している可能性が高い
- 待ち時間が発生していると推定できる場合 → 「会計待ちの緩和」という付加価値を強く打ち出した提案を設計する
この推定が商談前に完成していることで、院長が「待ち時間が課題で…」と話した際に即座に「そうですよね、そのような状況のクリニック様では会計待ちの緩和に効果が出るケースが多いです」という形でつなげられます。潜在的な課題への理解を商談前に持つことで、本質的な課題解決の提案が可能になります。
3. チーム朝会の設計転換──当事者意識を全員に持たせる
「聞くだけの朝会」の問題点
チーム全体での朝会を全員まとめて実施していた時の問題点は、「情報共有をする場」にはなっているが、「各メンバーが自分ごととして動く意識」が生まれていないことでした。全員が同じ場で同じ内容を聞いていると、「自分が担当しているわけではない」という傍観者意識が生まれやすくなります。
セールスチームとOBチームに分けた朝会設計
解決策として、全体朝会の時間を半分にし、セールスチームとOB(オンボーディング)チームそれぞれに分けた朝会へ変更しました。
セールスチームの朝会:
- 当日の架電目標・アポ目標を確認する
- ゴールからの逆算で「今日何件の契約が必要か」を明確にする
- 目標達成に向けてどのように行動するかを話し合い、指標を設定する
OBチームの朝会:
- 当日の運用説明会の内容を共有し、進め方の戦略を立てる質疑応答を行う
- 運用説明会の日程設定ができる取引先を全員が把握する
- 目標に対してショートする見込みがある場合はセールスチームと連携する
チームを分けて朝会を実施することで、各メンバーが「自分のチームの数字・動き方・今日何をすべきか」という当事者意識を持って参加するようになります。「聞くだけの朝会」から「自分が意思決定に関与する朝会」への転換が、チーム全体の目標達成意識を高めます。営業組織コンサルティングにおいても、朝会設計の見直しはチーム力強化の即効性が高い施策として推奨しています。
4. 実践成果──決定率50%以上を安定維持し連続達成
医療機関向けサービスの営業での実践成果は以下の通りです(プロセルトラクション実績, 2024年度)。
| 月 | 目標 | 実績 | 達成率 | 決定率 |
|---|---|---|---|---|
| 12月 | 16件 | 24件 | 150% | 69% |
| 1月 | 14件 | 20件 | 142% | 64% |
| 2月 | 14件 | 14件 | 100% | 65% |
| 3月 | 14件 | 14件 | 100% | 55% |
決定率目標50%に対して、全4ヶ月で55〜69%という水準を安定的に維持し、連続で達成を実現しました。商談事前準備の3ステップによって「一般論から個別クリニックへの提案」への転換が図られ、チーム朝会の分別によって全員の当事者意識が高まった結果です。
よくある質問
クリニック向け商談で事前調査にどのくらい時間をかけるべきですか?
1件あたり10〜15分を目安にしてください。ステップ1のHP確認(決済方法・予約手段)に5分、ステップ2の口コミ確認に3〜5分、ステップ3の地域データ確認に3〜5分が目安です。慣れれば10分以内で完了でき、この投資が決定率50%以上の安定維持につながります。
朝会を分けることでデメリットはありませんか?
情報の分断が懸念されますが、全体朝会の時間を半分残してチーム全体の進捗を共有する場を設けることで解消できます。分別朝会の目的は「当事者意識の醸成」であり、全体の情報共有を廃止するわけではありません。セールスとOBが自分のチームの数字を意識して動く状態を作りつつ、全体の連携も維持する設計が重要です。
事前調査の3ステップは医療機関以外の業界でも使えますか?
基本的な考え方は他業界でも応用可能です。ステップ1の「HPから現在のオペレーションを確認」、ステップ2の「口コミや外部評価から潜在課題を把握」、ステップ3の「市場データと施設規模から課題を推定」という3段階の構造は、飲食・小売・教育など対面サービス業全般に適用できます。
まとめ──決定率を安定させる商談準備とチーム設計の2本柱
医療機関向けサービスの商談で決定率を安定させるための実践手法をまとめます。
商談事前準備の3ステップ:
- ステップ1:HPで決済方法・予約手段を確認し、現在のオペレーションと課題を想定する
- ステップ2:口コミから患者の声を把握し、院長が言わない潜在課題を事前に理解する
- ステップ3:地域の平均患者数と施設規模を照らし合わせて待ち時間課題を推定し、付加価値訴求を設計する
チーム朝会の設計:
- 全員まとめた朝会をセールスチームとOBチームに分割する
- 各チームで「今日何をすべきか」を自分ごととして話し合い指標を作る
- OBチームは達成ショートの見込みが出たらセールスと即連携する体制を設計する
これらを組み合わせることで、個人のスキルや経験値に依存しない安定した決定率と連続達成が実現できます。
この記事の執筆者
長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役
リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。100を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。







