最終更新: 2026年6月
KPI細分化マネジメントとは、チーム全体の達成率だけでなく、メンバー1人ごとに架電数・接続率・アポ獲得率・受注率を個別に管理し、課題を特定して打ち手を変えるマネジメント手法です。
インサイドセールスのユニットリーダー(UL)が直面する最大のジレンマは、「マネジメントに注力すると個人の営業数字が落ち、個人営業に注力するとチームが機能しなくなる」という二律背反です。この状態を打破するためには、「自分が動くことで成果を出す」から「データで課題を特定し、メンバーが動ける状態を設計する」というマネジメントの質的な転換が必要です。KPI設計・仮説検証からPDCA実行まで一気通貫で支援する株式会社プロセルトラクションにてPL MVP賞を受賞した担当者の実践事例から、ULとしてチーム全クォーター達成に貢献しながら、個人としても年間目標154万円に対し実績383万円・全ユニット1位の達成率248.7%を実現した手法を解説します(プロセルトラクション実績, 2024年度)。
この記事の目次
ULと個人営業の両立が難しい2つの構造的理由
「管理」に終始するULと「数字が出ない」チームの連鎖
某セキュリティ研修サービスの営業チームにおいて、UL(ユニットリーダー)が直面する典型的な状態は次の通りです。
- メンバーの成果に個人差が大きく、達成・未達成が固定化している
- リーダーが個々のメンバーの状況を「感覚」で把握しており、打ち手が抽象的になる
- チームの数字が出ない原因が「どのフェーズで何が詰まっているか」まで分解されていない
この状態では、ULが「もっとがんばれ」という精神論的な指示か、「こうしなさい」という自分のやり方の押し付けに陥りやすくなります。どちらも効果が薄い理由は同じです。メンバーごとに「なぜ成果が出ていないか」が異なるにもかかわらず、全員に同じ対処をしているからです。
解決の2軸
この課題を解決するための方向性を2軸で設計しました。
- ULとしての動き:定量データの細分化による課題の特定と、メンバーごとに合わせた打ち手の設計
- 個人営業としての動き:商談前の徹底的な事前準備と、クロージングまで一切抜けのない商談ストーリーの設計
ULとしての取り組み1:徹底的な細分化でメンバーごとの課題を特定する
「チームとして達成しているか」の一段先を見る
チーム全体の達成率だけを追っていると、「全体として80%だから、もう少し頑張れば達成できる」という大まかな把握しかできません。しかし、この状態では「どのメンバーが・どのフェーズで・なぜ詰まっているか」が見えません。
そこで採用したのが、メンバーごとの数値を複数の指標に細分化して管理するアプローチです。
管理する6つの指標:
- 架電数(行動量)
- 接続率(架電に対して実際に会話できた割合)
- アポ獲得率(接続した相手のうちアポになった割合)
- 商談数(アポから商談に進んだ件数)
- 受注率(商談から受注した割合)
- 達成率(目標に対する実績)
この6つの指標を1人ごとに把握することで、「架電数は多いが接続率が低い」「接続できているがアポが取れない」「商談には進んでいるが受注できない」という3者まったく異なる課題を持つメンバーが、同じチームの中に混在していることが見えてきます。課題が見えれば、打ち手も変わります。
アポNG理由のダッシュボード化
細分化の中でも特に重要な取り組みが、アポイントを断られた理由の記録と分析です。
断られた理由を「今じゃない」「予算がない」「担当者不在」「競合に決めた」といった形で分類・記録し、メンバーごと・期間ごとに集計します。このダッシュボードを見ることで、「特定のメンバーが特定の断られ方をされ続けている」「先月から断られ方のパターンが変わった」という変化を早期に検知できます。
変化の検知が早ければ、トーク修正・アプローチ先の変更・タイミングの調整など、具体的な打ち手を素早く講じることができます。インサイドセールス代行の現場では、このアポNG分析がチーム改善の起点として最も機能する指標の一つです。
ULとしての取り組み2:ハイパフォーマーとの比較でボトルネックを言語化する
アポ獲得率の高い担当者と低い担当者の違いを分解する
数値の細分化によって「アポ獲得率が低い担当者」が特定できたとして、次の問いは「なぜアポ獲得率が低いのか」です。この問いに答えるためにチーム内でハイパフォーマーとのトーク比較分析を行いました。
アポ獲得率が高い担当者の特徴:
- 声のトーンが明るく元気で、会話の入り口から好印象を作っている
- 話しすぎず、相手が話す余地を意図的に作っている
- 日程のクロージングを会話の中で複数回行い、「いつ会えますか」を自然な形で繰り返している
アポ獲得率が低い担当者の特徴:
- 声のトーンが低く暗く、第一印象の段階で相手の聞く姿勢が落ちている
- 説明が長く、相手が「早く切りたい」と感じる会話構造になっている
- 「ご都合の良いときに」という曖昧な日程打診にとどまり、日切りを明確にしない
これらの違いを言語化することで、「明るくしなさい」ではなく「会話の冒頭30秒でトーンと速度をどう設計するか」「日切りを何回・どのタイミングで入れるか」という具体的なフィードバックができるようになります。
ULとしての取り組み3:壁打ちフローで商談の質を底上げする4ステップ
「進め方の相談」を商談前に型として設計する
メンバーの商談の質を上げるための取り組みとして導入したのが、「壁打ちフロー」です。商談に臨む前にリーダーと一対一で相談し、商談ストーリーを一緒に設計するプロセスです。
壁打ちフローの4ステップ:
- 商談の「進め方」を相談するところから始める:「この案件、どう商談を進めようと思っているか」をメンバーが話し、リーダーが聞く
- 事前情報を共有する:法人種別・現状のフロー・HPから得た情報・商談に臨む相手のレイヤー(担当者か決裁者かなど)・仮説をメンバーが提示する
- 内容に沿ってフィードバックする:提示された情報に対して「この仮説だとこういう反論が来る可能性がある」「このレイヤーにはこの訴求が刺さりやすい」という形でリーダーが即時フィードバックを行う
- 商談ストーリーを策定する:壁打ちの結果として「この商談ではこの流れで進める」という具体的なストーリーをメンバー自身が言語化して商談に臨む
この壁打ちフローを導入することで、「商談で何を話すかわからなくなった」「想定外の反論に詰まった」という事後的な失敗が減り、商談の成功パターンをチームで蓄積できるようになります。
個人営業としての取り組み:事前準備と商談ストーリーの一貫設計
「リーダーが売れなければ、誰もついてこない」
ULがメンバーのマネジメントに専念し、自分は数字を出さないというスタンスは、長期的にチームの信頼を失います。「リーダーが売れなければ、誰もついてこない」という問題意識を持ち、UL業務と並行して個人の営業成果を出し続けることが、チームの士気と信頼関係の基盤になります。
ステップ1:商談前の徹底的な事前準備
商談の成否を決めるのは商談当日ではなく、商談前の準備の質です。以下の2段階で事前準備を行います。
法人情報の確認:
- インターネットでの情報収集(事業内容・代表者経歴・組織図・部門構成)
- 商談に臨む担当者の情報(役職・権限範囲)
状況確認の仮説設計:
- 「この会社は何をしているか」「何人体制か」「どこで困っているか」「未来にどうなりたいか」という4つの状況確認ポイントに対する仮説を複数パターン準備する
この準備が完了した状態で商談に臨むと、「弊社のサービスはこういう機能があります」という一方的な説明から、「御社は〇〇という状況かと思いますが、その場合は△△という課題が生じやすく、弊社サービスの□□機能で解決できます」という個別提案の形に商談の質が変わります。
ステップ2:一つも欠かせない商談ストーリーの6フェーズ設計
商談には「ここが決まれば受注できる」というパートが複数存在します。そのどれか一つでも合意が取れていなければ、クロージングで失注します。営業組織コンサルティングの観点でも、商談ストーリーの網羅性が受注率に直結します。
商談ストーリーの6フェーズ:
- ヒアリング:現状・課題・背景を正確に把握する
- 未来の姿イメージ:「このサービスを使うとどうなるか」を顧客自身が言語化できる状態を作る
- 課題合意形成:「確かにこれが課題だ」という合意を顧客から取る
- 機能合意:「この機能がその課題に対応できる」という理解と合意を取る
- 価値合意:「このサービスを導入することで価値が生まれる」という認識を共有する
- 全てのパートのクロージング:「一つでも欠けたら失注」という意識で、各フェーズの合意を確認しながら商談を進める
実践成果──個人248.7%・チーム全クォーター達成
某セキュリティ研修サービスの営業での実践成果は以下の通りです(プロセルトラクション実績, 2024年度)。
個人営業成果:
- 年間目標154万円 → 実績383万円(達成率248.7%・全ユニット1位)
UL成果(クォーター別):
| クォーター | チーム達成率 | 備考 |
|---|---|---|
| 1Q | 103% | 達成 |
| 2Q | 103% | 達成 |
| 3Q | 87% | 未達 → 壁打ちフロー強化・運用改善 |
| 4Q | 101.9% | 3Q未達からの巻き返し |
クライアントワーク成果:
- プロセルトラクションのシェア:54.2%
- 前年比+15名増員
- 競合4社中最多の32名体制を実現
3Qに未達となった際に、壁打ちフローの運用と数値細分化の精度を見直したことで4Qに101.9%で巻き返しを実現しました。「逃げずに課題と向き合い、データで打ち手を変える」というプロセスが、チームと個人の両方の成果につながりました。
よくある質問
メンバーごとのKPI細分化はどの指標から始めるべきですか?
まず架電数・接続率・アポ獲得率の3つから始めることを推奨します。この3つを1人ごとに把握するだけで、「行動量が足りない」「行動しているが接続できていない」「接続しているがアポに転換できていない」という課題の違いが明確になります。受注率・達成率はこの3つが安定してから追加しても遅くありません。
壁打ちフローにはどのくらいの時間をかけるべきですか?
1件あたり10〜15分を目安にします。壁打ちフローは「メンバーの商談準備の質を上げる」ことが目的であり、リーダーが代わりに商談設計をすることではありません。メンバー自身が「この案件はこう進める」と言語化し、リーダーが補足・修正する形にすることで、短時間でも十分な効果が得られます。
ULと個人営業を両立するための時間配分はどうすべきですか?
UL業務に使う時間は「データ分析・壁打ち・フィードバック」に限定し、それ以外の時間を個人営業に充てる設計にします。重要なのは、マネジメントの質を「時間」ではなく「精度」で上げることです。数値細分化とアポNG分析によって課題を事前に特定しておけば、壁打ちやフィードバックの時間を最小限に抑えながら、的確な指示が出せます。
まとめ──ULと個人営業を両立して全ユニット1位を実現する4つの実践
ULとして「チームの数字」と「個人の数字」を同時に出し続けるための実践手法をまとめます。
メンバーごとの数値細分化:
- 架電数・接続率・アポ獲得率・商談数・受注率・達成率を1人ごとに管理する
- アポNG理由をダッシュボードで可視化し、断られ方の変化を早期に検知する
ハイパフォーマー比較分析:
- アポ獲得率の高い担当者と低い担当者の違いを「声のトーン・話量・日切りの回数」まで具体的に言語化する
- 「感覚」ではなく「差分の言語化」がフィードバックの質を決める
壁打ちフロー:
- 商談前に法人情報・商談レイヤー・仮説を共有し、リーダーが即時フィードバックを行う
- 壁打ちの結果として商談ストーリーをメンバー自身が言語化してから臨む
個人営業の商談設計:
- 法人情報・状況仮説の準備を商談前に完成させる
- ヒアリング→未来イメージ→課題合意→機能合意→価値合意→クロージングの6フェーズを一つも欠かさず進める
「リーダーが売れなければ誰もついてこない」という当事者意識を持ちながら、データで課題を特定し、メンバーが動ける環境を設計することで、チームと個人の両方の成果を同時に実現できます。
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この記事の執筆者
長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役
リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。100を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。







