最終更新: 2026年6月
商材習得ループとは、新しいセグメントや営業種別を担当する際に「業界理解→訴求ポイント整理→短サイクルPDCA」の3ステップで素早く商談力を立ち上げ、過去の顧客関係も並行維持する営業設計手法です。
アウトバウンド・新規開所・インバウンドという3種類のアプローチ手法を、1年間で次々と切り替えながら成果を出し続けることは、一般的にきわめて難しいとされています。アプローチ手法が変わるたびに顧客層が変わり、求められる商材知識・トーク設計・関係構築の方法が異なるからです。KPI設計・仮説検証からPDCA実行まで一気通貫で支援する株式会社プロセルトラクションにて年間MVP賞を受賞した担当者の実践事例から、セキュリティ研修向けサービスの営業において1年間でセグメントが複数回変わる状況下でも全クォーター達成を維持し、年間目標194万円に対し実績274.8万円・達成率141.6%を実現した手法を解説します(プロセルトラクション実績, 2024年度)。
この記事の目次
1. 1年間で状況が目まぐるしく変わる中での3つの課題
セグメント移動・種別変更が連続して起きる状態
セキュリティ研修向けサービスの営業では、1年間を通じて以下の状況変化が連続しました。
- 1Q:アウトバウンド営業(Aセグ)→Bセグへの移動・自治体リストへの対応
- 2Q:Dセグ開発兼営業への抜擢→新規開所への切り替え
- 3Q:インバウンド営業への抜擢→Cセグ領域への着手
- 4Q:インバウンドを軸に、アウトバウンド・新規開所・インバウンドリスト全てから受注集中
これだけの変化が1年間で続くと、「今の担当セグメントに慣れたと思ったら次のセグメントに移る」という状態が繰り返されます。新しい商材知識・トーク・顧客ペルソナを習得しながら、同時に以前のセグメントで構築してきた顧客関係も追客し続けなければなりません。
3つの課題設定
この状況から生まれる課題を3つに設定しました。
- 新たに3種別を覚え、商材研究して自分の言葉で商談できるようにする
- セグメントごとのコアタイムが違う中、関係構築してきた顧客も同時進行で追客する
- 個人だけでなく、チームとしても達成できるように底上げをする
2. 新しい種別を「自分の言葉」で話せるレベルまで習得する3ステップ
「マニュアルを読む」ではなく「業界を理解する」
新しいセグメントや種別を担当する際に陥りやすいのが、「商品の機能を覚える」ことで終わってしまう状態です。機能を覚えただけでは「この顧客にとって何が価値なのか」がわからないため、「弊社サービスはこういう機能があります」という説明に終始してしまいます。
「自分の言葉で商談できる」状態に到達するためには、商品ではなく業界と顧客を先に理解することが必要です。
ステップ1:業界知識を深める
新しい顧客セグメントに向き合う際にまず取り組むのが、業界そのものへの理解です。
確認すべき4点:
- この業界の特徴は何か
- 担当者は何をしているか(日々の業務フロー)
- 何を期待して電話を受けてくれるか
- どんなペルソナが意思決定者として存在するか
この理解を深めるための具体的な手段として、過去の商談録画の視聴と、チーム内で全営業担当者が記録している1ヶ月分のベストナレッジの確認を徹底しました。他の担当者がどのような切り口で商談しているかを観察することで、自分が担当したことのないセグメントの顧客像を素早く把握できます。
ステップ2:訴求ポイントをまとめる
業界理解ができたら、次に「このセグメントの顧客はどこに価値を感じるか」を整理します。担当変更先セグメントでは、顧客のニーズを以下の4つに分類して整理しました。
- 業務効率化:現在手動や複数ツールに分散している業務を統合・自動化したい
- 運営面や職員を守る:セキュリティインシデントから組織を守るための研修体制が必要
- 利用者を守る:サービス利用者への情報漏洩リスクを排除したい
- 事業の存続:コンプライアンス対応として研修導入が義務化される前に準備したい
この4分類が把握できると、「このお客様はどのニーズが強いか」を商談前に仮説として持てるようになり、提案の切り口を顧客ごとに変えることができます。さらに、顧客ごとに最適なデモ画面の見せ方を事前に設計し、「あなた専用の提案」という印象を商談の場で作ります。
ステップ3:PDCAを短いサイクルで回す
業界知識と訴求ポイントの整理ができたら、実際の商談でPDCAを回します。
- Plan:達成目標と訴求仮説を決める
- Do:「この人から買いたい」と思ってもらえる信頼関係の構築を意識しながら商談する
- Check:営業プロセスを振り返り、どのフェーズで課題が発生したかを特定する
- Act:小さな改善点を次の商談に取り入れる
新しいセグメントを担当し始めた最初の数週間で何度もPDCAを回すことで、「自分の言葉で話せる」状態への到達を加速できます。
3. セグメントが変わっても過去の顧客関係を維持する「関係構築のループ」
コアタイムが違う顧客を同時に追う難しさ
セグメントが移っても、以前のセグメントで時間をかけて関係構築してきた顧客との追客を止めることはできません。しかし、セグメントごとにコアタイム(接続しやすい時間帯)が異なるため、複数セグメントを同時進行するスケジュール管理は複雑になります。
この状況を乗り越えるための考え方が、「関係構築のループ」です。
関係構築のループを構成する5つのアクション
顧客との関係構築は一度きりのアプローチで完結するものではなく、継続的な接点の積み重ねによって信頼が深まり、最終的に受注につながるサイクルです。
- 定期的なお土産話:「こういう情報があったので共有したいと思って」という形で、顧客に価値のある情報を持ってコンタクトします。セールスの文脈ではなく情報提供の文脈で接触することで、受け取られ方が変わります
- 非決裁者を大切にする:担当者・窓口の方を等しく大切に扱います。非決裁者が「この人は信頼できる」と感じることが、決裁者への推薦につながります
- 約束を守る:「次回連絡します」「資料を送ります」という小さな約束を必ず守ります。約束を守ることの積み重ねが、信頼の基盤になります
- 失注は挨拶で終わる:受注に至らなかった場合も、好意的に関係を終えます。失注後の対応が次の接触のしやすさを決めます
- 行動量にこだわる:関係構築は接触回数に比例します。コアタイムの違いを把握した上で、架電・メール・情報共有の行動量を維持します
ループを支える3つの姿勢
- 気持ちに寄り添う:顧客の状況や感情を理解してから提案する
- 人を人として見る:取引先ではなく一人の人間として関心を持って接する
- 相手の喜びを探す:「この人に何が役立つか」を常に考える
これらの姿勢を持ったまま5つのアクションを繰り返すことで、セグメントが変わっても顧客との信頼関係が途切れない状態を維持できます。実際に4Qではアウトバウンド・新規開所・インバウンドリスト全てから受注が集中し、過去に種をまいた関係構築のループが結実しました。
4. チームの底上げのための4つの心がけ
個人の達成がチームの達成とは限らない
個人として成果を出し続けながら、チームとしても達成できる状態を作るためには、「自分が売れればいい」ではなく「チームが売れる状態を作る」という視点の切り替えが必要です。
- 興味を持って接する・良いところを拾う:チームメンバーの仕事ぶりに関心を持ち、うまくいっている点を言語化して伝えます。「良いところを拾う」フィードバックが、メンバーの自信と行動量の向上につながります
- なんでも共有する:うまくいった事例だけでなく、失敗した事例・難しかった商談・試行錯誤の過程も共有します。「失敗を共有できる文化」がチーム全体の学習速度を上げます
- チームファーストで動く:自分の数字だけでなく「チームメンバーのために今できることは何か」を考えて行動します。この姿勢がチームとしての達成率向上に直結します
- 頼る・弱みをさらけ出す:「できないこと」「わからないこと」を正直に共有することで、チーム内での助け合いが生まれます。弱みを開示することが、信頼関係と相互支援の文化を育てます
5. 実践成果──全クォーター達成・年間141.6%
セキュリティ研修向けサービスの営業での年間成果は以下の通りです(プロセルトラクション実績, 2024年度)。
年間実績:目標194万円→実績274.8万円(達成率141.6%)
| クォーター | 種別 | 目標 | 実績 | 達成率 |
|---|---|---|---|---|
| 1Q | アウトバウンド | 28万円 | 33.5万円 | 119.6% |
| 2Q | アウトバウンド→新規開所 | 24万円 | 32万円 | 133.3% |
| 3Q | 新規開所→インバウンド | 58万円 | 78.5万円 | 135.3% |
| 4Q | インバウンド(全種別受注) | 84万円 | 130.8万円 | 155.7% |
全クォーターで目標を上回る達成率を維持し、4Qはアウトバウンド・新規開所・インバウンドリスト全てから受注が集中する状態を実現しました。複数セグメントにまたがる関係構築のループが機能した結果、最終クォーターでは全種別のリストから受注できる状態になっています。
よくある質問
新しいセグメントに移動したとき、最初に何をすべきですか?
商品の機能を覚えるよりも先に、業界そのものを理解することから始めます。業界の特徴・担当者の業務フロー・期待値・意思決定者のペルソナの4点を把握した上で商品知識に入ることで、「自分の言葉で商談できる」状態への到達が早まります。過去の商談録画の視聴やチーム内ナレッジの確認が有効な手段です。
セグメントが変わると過去の顧客関係は途切れてしまいませんか?
「関係構築のループ」を設計していれば途切れません。定期的なお土産話(情報提供目的の接触)・約束を守る・失注後も好意的に関係を終えるという行動を継続することで、セグメントが変わった後も過去の顧客との信頼関係を維持できます。実際に4Qでは過去のセグメントからも受注が集中しました。
個人の成果とチームの底上げを両立するにはどうすればよいですか?
「チームファーストで動く」という視点を持つことが出発点です。具体的には、成功事例だけでなく失敗事例も含めた全共有、メンバーの良いところを言語化して伝えるフィードバック、自分のできないことを正直に開示する姿勢の3つを実践します。弱みをさらけ出すことでチーム内の助け合いが生まれ、結果としてチーム全体の達成率向上につながります。
まとめ──複数セグメントを横断しながら年間達成する3つの設計
状況が1年間で目まぐるしく変わる中でも全クォーター達成を維持するための実践手法をまとめます。
商材習得の3ステップ:
- 業界特徴・業務フロー・期待値・ペルソナを把握してから商品知識に入る
- 訴求ポイントをニーズ別に分類し、顧客ごとに切り口を変える準備をする
- PDCAを短いサイクルで回し、「自分の言葉で話せる」状態に素早く到達する
関係構築のループ設計:
- 定期的なお土産話・非決裁者を大切にする・約束を守る・失注は好意的に終える・行動量を維持する
- 顧客を「取引先」ではなく「人」として見る姿勢が、長期的な信頼の土台になる
チーム底上げの4つの心がけ:
- 良いところを拾うフィードバック・失敗含む全共有・チームファーストの行動・弱みをさらけ出す姿勢
新しいセグメントへの挑戦を「やりたいです」と手を挙げて取りに行き、その度に業界理解から商材習得をやり直す姿勢が、年間を通じた成長と全クォーター達成の根幹にあります。
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この記事の執筆者
長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役
リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。100を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。







