最終更新: 2026年6月
事業譲渡後のIS営業設計とは、組織体制の変更や人員流出が起きた環境でも安定した売上を確保するための営業戦略の再構築手法です。
事業譲渡を経て組織体制が大きく変わった環境での営業は、担当するサービスへの理解が追いつかないまま、役割だけが増えていく状態になりがちです。そのような状況でも、「誰に何を売るか」の再整理と、「他部署との接点の作り方」を変えることで、KPIを確保しMRRを安定させることができます。KPI設計・仮説検証からPDCA実行まで一気通貫で支援する株式会社プロセルトラクションの2025年度1Q ML準MVP賞を受賞した担当者の実践事例から、大手コミュニケーションプラットフォーム企業のAI製品DXサービス営業において、「PFer/EndUser別の営業内容の切り分け」「他部署営業チームとの連携強化」「製品知識の自走的な蓄積」という3つの取り組みで、新規633,000円(16件)獲得・MRR680万を確保した設計を解説します(プロセルトラクション実績, 2025年1-6月)。
この記事の目次
1. 事業譲渡後の3重苦──組織が変われば役割も変わる
「誰の何を担当するか」が毎月変わる状況
2023年4月、担当していたサービスは大手コミュニケーションプラットフォーム企業からAI製品の事業譲渡を受けた組織に移りました。この移行後、次のような状況が重なりました。
- 組織体制の変更: 事業譲渡後に組織もメンバーも大きく変わり、Salesチームの役割が頻繁に変更された
- 人員流出: チームメンバー5名のうち2名が退職。補充がないまま業務過多が続く
- 他部署との接点なし: 既存の主幹事業を担う部署とは縦割り組織の影響でほぼ接点がなかった
この状況で直面した3つの課題は以下のとおりです。
- 営業リソース不足によるKPI未達
- 縦割り組織により、他部署の顧客にアプローチできない
- AI製品の知識不足により、提案や課題解決の幅が狭い
2. 取り組み1:PFer・EndUserで営業内容を切り分ける
「大きな売上の顧客」と「小さくても早い売上の顧客」を分けて動く
AI製品DXサービスの顧客は、大きく2タイプに分かれます。
- PFer(Platform利用者): 提供するサービスの利便性向上による顧客数・売上の増加を目的とする。リードタイムが長く、売上額も大きい
- EndUser(エンドユーザー): 目の前にある課題をスピーディーに解決したい。リードタイムが短く、売上は小さい
リソースが限られている状況では、この2タイプを同じアプローチで追いかけると、PFerは時間がかかりすぎて四半期内の数字に貢献できず、EndUserは後回しになってしまいます。
営業内容を切り分けることで、以下の効果が生まれました。
- PFerへの提案:長期的な関係構築と利便性向上のバリューを中心に提案
- EndUserへの提案:直近の課題解決を軸にした、意思決定スピードに合わせた提案
3. 取り組み2:他部署営業チームとの連携強化
縦割り組織の壁を個人の関係構築で乗り越える
新年度から組織体制が業界カット構成に変わり、他部署も積極的に営業する体制になったタイミングで、次の3つの接点を作ることに集中しました。
- 商談同席: 他部署担当者と商談に同席し、AI製品の視点から補足・提案できる関係を作る
- 展示会イベント: 他部署との合同展示会に参加し、顧客接点の幅を広げる
- 個別相談: 他部署からの個別質問・FAQへの対応を通じて「AI製品に詳しい人間」として認識される
結果として以下の成果が得られました。
- 他部署チームでアウトバウンドコールのプロジェクトを受注し、新たに2名のアサインが可能になった
- 商談同席依頼が1〜2件/日に増えた
- FAQへの対応を行うようになり、ナレッジの横展開が進んだ
4. 取り組み3:製品知識の自走的な蓄積
「答えられない質問」を放置しない
高度な製品リテラシーを持つ企画・開発部門に偏りがちなSaaS企業では、営業担当がサービスの詳細を把握しきれないまま商談に臨むことが多いです。疑問に思ったことや顧客から質問されて答えられなかった内容を企画部門・テクニカルサポートに積極的に確認し、自身のナレッジとして蓄積することを続けました。
蓄積したナレッジの活用方法は以下のとおりです。
- 同一業界では課題が共通していることが多いため、ナレッジの横展開で「業界に詳しい人間」として顧客から認識される
- チームのFAQ対応や商談同席のベースになり、チーム内でのナレッジ共有が進む
5. 実践成果──新規633,000円・MRR680万・増員2名
事業譲渡後の混乱期を経て、3つの取り組みを継続した成果を紹介します(プロセルトラクション実績, 2025年1-6月)。
KPI関連:
- 2025年1-6月で新規633,000円(16件)の獲得
- MRR680万のベース売上を確保
他部署連携の成果:
- 他部署でアウトバウンドコールPJを受注し、新たに2名のアサインを実現
- 商談同席依頼が1〜2件/日に定着
- 実績とスキルが認められ、パートナーセールスへのコンバートが決定
ナレッジ蓄積の成果:
- 同一業界での課題共通性を活かした提案が増え、顧客からの信頼獲得につながった
- チームのFAQ対応水準が上がり、チーム全体の商談力が向上した
6. よくある質問
事業譲渡後に営業チームが最初にやるべきことは何ですか?
最初にやるべきことは「誰に何を売るか」の再整理です。事業譲渡後は組織体制・顧客構成・製品ラインナップが変わるため、顧客タイプごとにリードタイムと売上規模を分類し、アプローチ方法を切り分けることが起点になります。
縦割り組織の壁を越えて他部署と連携するコツはありますか?
ポイントは「自部署の専門性を提供する」姿勢で接することです。商談同席・展示会参加・FAQ対応など、相手に価値を提供できる接点を作ることで、「この人に聞けば分かる」という信頼が生まれ、自然と連携が広がります。
製品知識の蓄積はどのように始めれば良いですか?
「答えられなかった質問を放置しない」ことから始めます。商談で答えられなかった内容を企画部門やテクニカルサポートに確認し、自身のナレッジとして記録します。同一業界では課題が共通していることが多いため、蓄積したナレッジを横展開することで提案の幅が広がります。
7. まとめ──事業譲渡後の混乱期でも安定した数字を出す3つの設計
組織変更・人員流出・役割兼務という状況でも成果を維持するための実践的な取り組みをまとめます。
PFer/EndUserの切り分け:
- リードタイムと売上規模で顧客タイプを分類し、アプローチを変える
- リソースが限られている状況では、短サイクルで成果が出るEndUserへの提案を先に積み上げる
他部署との連携強化:
- 組織体制の変更をきっかけに、他部署の担当者と商談同席・展示会・個別相談の接点を作る
- 「自部署の専門性を提供する」姿勢で接することで、他部署から信頼される存在になれる
製品知識の自走的な蓄積:
- 答えられなかった質問を放置せず、企画・テクニカルサポートに積極的に確認する
- 業界ナレッジを横展開し、「この人に聞けば分かる」という存在になることで顧客からの信頼が深まる
事業譲渡や組織再編という不確実な環境でも、顧客セグメントの切り分け・社内連携・知識蓄積の3つを設計することで、安定した売上基盤を構築できます。
この記事の執筆者
長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役
リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。200を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。







