最終更新: 2026年5月
既存顧客へのアップセル(US)は、新規顧客の獲得とは根本的に異なる構造を持っています。新規は「リストを広げて架電数を増やす」戦略が機能しますが、既存顧客へのアップセルは、対象顧客が固定されたリストから継続的に案件を発生させなければなりません。
200社程度の固定リストから高い目標数値を達成するためには、「何かお困りごとありますか?」「何かご依頼はありますか?」という待ちの営業では数字になりません。案件を能動的に発掘し、利用拡大のアプローチを設計する仕組みが必要です。
実際の現場で蓄積された実践事例から、既存顧客へのアップセルを継続的に発生させるための実践手順を解説します。
この記事の目次
既存顧客へのアップセルが難しい理由とは?──構造的な2つの課題
既存顧客へのアップセルが難しい最大の理由は、「リストが有限であること」と「自己中心的なアプローチが信頼を壊すこと」の2点です。この2つの構造的な課題を理解しないまま架電を続けると、限られたリストを消耗するだけで成果に繋がりません。
固定リストから高い目標を達成しなければならない構造
アップセル(既存顧客深耕)が難しい最大の理由は、「リストが有限であること」です。新規開拓であれば、架電先リストを増やすことで対応できますが、既存顧客へのアップセルでは対象となるクライアント数に上限があります。
200社程度のクライアントから高い目標数値を達成しなければならない状況では、以下のような問題が発生します。
問題1:「何かお困りごとありますか?」の架電だけでは1週間もかからずにコールが終わってしまう
全クライアントに同じ聞き方でアプローチすると、返答が来るか来ないかのどちらかで会話が終わります。依頼が発生しているクライアントはそのまま進みますが、発生していないクライアントからは何も生まれません。
問題2:コール回数が少ないと物件が枯渇し、単価が低い状態から抜け出せない
受動的なアプローチを続けると、依頼してくれるクライアントだけに依存する状態になります。これでは特定のクライアントへの依存度が高くなり、そのクライアントの状況に数字が左右されます。
なぜ「自己中心的なアプローチ」は信頼関係を壊すのか?
既存顧客へのアプローチでよくある失敗は、「こちらが達成したい目標」を中心に架電することです。依頼が欲しいから架電する・件数を増やしたいから架電する、という姿勢は顧客側に伝わります。
顧客の立場からすると、「また依頼を促してくる電話か」という印象になり、長期的な信頼関係構築の妨げになります。
アップセルで成果を出し続けるためには、「顧客の課題を解決する」という姿勢でのアプローチが不可欠です。サービスで解決できる範囲にある課題を見つけ出し、その課題解決をサポートすることで、自然に依頼が増えていく関係性を構築することが、長期的な成果につながります。
既存顧客から継続案件を発生させる4つの方法
既存顧客からアップセルを継続発生させるには、「大型クライアント特定→利用拡大→依頼型化→信頼構築」の4ステップを順に実行します。待ちの営業から能動的な案件発掘へ転換するための具体的な方法を解説します。
アプローチ1:アップセル対象の大型クライアントを特定する方法
既存顧客リストの中から、最も依頼ボリュームが大きくなる可能性のある「大型クライアント」を特定することが、アップセル成功の第一歩です。
大型クライアントを特定するために確認すべき情報:
ホームページや商談で確認できる情報:
- 自社物件があるかどうか→「自社物件の施工件数って年間どれくらいですか?」
- 管理物件の件数を確認する時に→「年間で管理物件の目標数値などはありますか?」
これらの情報を事前に調べておくことで、「このクライアントには継続的に大きなボリュームが期待できる」という見立てが立てられます。
過去に受注した案件の傾向を分析し、「どの規模・業態のクライアントが大型案件に発展しやすいか」という判断軸を自分なりに持っておくことが、大型クライアント特定の精度を上げます。
アプローチ2:「一部利用」の理由を解消してサービス利用を拡大するには?
大型クライアントが特定できたら、次はそのクライアントのサービス利用状況を確認します。確認した結果によって、アプローチを分岐させます。
全部利用の場合:
「このまま宜しく」という方向で関係強化を続けます。全部利用しているクライアントは既に高い信頼関係が構築できている状態のため、維持・深耕が主な活動になります。
一部利用の場合:
「なぜ?」を明確にします。一部しか利用していない理由を掘り下げることで、利用拡大の余地が見えてきます。「なぜ一部しかご利用いただいていないのですか?」という直接的な確認と、その理由への対応策の提案がアプローチの核心になります。
「なぜ一部しか使っていないのか」の理由が解決されると、サービスの利用価値が上がります。操作が分かりにくい・連絡方法が合わない・特定の担当者しか使っていない、などの理由を一つずつ解消することで、利用量が自然に増えていきます。
アプローチ3:依頼方法を型化してスムーズな連携を作るコツ
既存顧客との継続的な取引において、「依頼する側が楽で効率がいい方法」を整備することが、依頼ボリュームを増やすための実践的な取り組みです。
クライアントによって物件管理の方法が異なる場合は、クライアント側の各担当者にアクセスし、それぞれの依頼フローを確認します。
依頼方法の型化で確認すべき内容:
- 見積・物件登録の依頼方法を型化する→毎回見積が欲しいのか、見積は不要だが料金表があれば良いのか
- どういう依頼方法が楽で効率がいいのかを探る→メール・電話・チャットなど、クライアントの好む連絡手段を把握する
- 各営業ごとに物件管理が異なる場合は、それぞれの担当者に個別にアクセスする
依頼フローが整備されることで、クライアント側の「依頼する手間」が減り、依頼頻度が上がります。「何か依頼したい時に面倒だから」という理由で依頼が減っているケースは、フローの整備で解決できることが多いです。
アプローチ4:信頼関係を継続的に構築する方法
アップセルの継続的な発生は、「信頼できるパートナー」という評価が蓄積されることで生まれます。信頼関係の構築は、単発的な対応ではなく、継続的な関与によって形成されます。
信頼関係を構築するための具体的な行動:
報告書・提案からの提案活動:
サービスの利用報告書や分析データの中から、修正が必要な個所・改善できる点をピックアップして提案します。「言われたことをやる」だけでなく、「気づいたことを先に提案する」姿勢が、クライアントに「このパートナーは自分たちのことを考えてくれている」という評価を生み出します。
トラブル時の即対応:
問題が発生した際に即対応することで、信頼関係が深まります。特に、これまで基本的に放置されていた状態のクライアントに対して必要な時に助ける行動をすることで、感謝されます。ただし、頻繁過ぎたり意味のない連絡はクライアントに面倒と感じさせるため、あくまでも「クライアントのためになる行動」に絞ることが重要です。
アップセル設計を「型」に落とし込むには?──4ステップの実践サイクル
アップセルを属人的な営業活動ではなく再現可能な「型」にするには、「大型クライアント特定→利用拡大→依頼型化→信頼構築」の4ステップをサイクルとして回すことが重要です。
大型クライアント特定→利用拡大→型化→信頼構築のサイクル
4つのアプローチを組み合わせて、継続的にアップセルを発生させるサイクルを設計します。
1. 大型クライアントの特定
HPやヒアリングで自社物件の有無・施工件数・管理物件数を把握し、大型クライアント候補を一覧化する。過去受注実績からも判断軸を整備する。
2. 利用状況の確認と「なぜ一部利用なのか」の解消
全部利用→維持・深耕。一部利用→理由を特定し、改善策を提案する。サービス利用の障壁を取り除くことで利用量が増える。
3. 依頼方法の型化
各担当者の依頼フロー・好む連絡手段を把握し、「依頼する手間が少ない環境」を整備する。これにより依頼頻度が上がる。
4. 信頼関係の継続的な構築
報告書・提案からの先手提案・トラブル時の即対応で、「このパートナーに任せておけば大丈夫」という評価を積み上げる。
このサイクルを回すことで、「受動的に依頼を待つ」状態から「能動的に案件を発掘し、利用を拡大する」状態へと転換できます。
なぜ「顧客課題起点」のアプローチ設計が重要なのか?
アップセルで長期的に成果を出し続けるためには、常に「クライアントの課題を解決するために何ができるか」という視点でアプローチを設計することが前提です。
サービスで解決できる範囲内にある課題を見つけ出し、商談につなげる。サービス利用の上で大小ある障壁を取り除き、使いやすくする。この積み重ねの結果として信頼関係が構築され、継続的なアップセルへと発展します。
「こちらが売りたい」ではなく「クライアントが使いやすくなるために何をするか」という設計が、既存顧客からの継続案件発生の核心です。
よくある質問
既存顧客へのアップセルと新規開拓は何が違う?
新規開拓は「リストを広げて架電数を増やす」戦略が機能しますが、アップセルは対象顧客が200社程度の固定リストに限定されます。そのため、1社あたりの深耕と利用拡大の設計が成果を左右します。受動的に依頼を待つのではなく、能動的に案件を発掘する仕組みが必要です。
一部利用のクライアントの利用を拡大するにはどうすればいい?
まず「なぜ一部しか利用していないのか」を直接確認します。操作が分かりにくい・連絡方法が合わない・特定の担当者しか使っていないなど、理由を一つずつ特定して解消することで、サービスの利用量が自然に増えていきます。
アップセルで信頼関係を壊さないためのポイントは?
「こちらの目標達成のために架電する」という自己中心的な姿勢は顧客に伝わり、信頼を損ないます。代わりに「顧客の課題を解決する」という視点でアプローチを設計し、報告書からの先手提案やトラブル時の即対応を通じて、「頼れるパートナー」としての評価を積み上げることが重要です。
依頼方法の型化とは具体的に何をする?
クライアントごとに「依頼する際の手順・連絡手段・必要な情報」を整理し、依頼のハードルを下げる取り組みです。毎回見積が必要か料金表で十分か、メール・電話・チャットのどれが好みか、各担当者の依頼フローを個別に把握して整備します。依頼する手間が減ることで、依頼頻度が自然に上がります。
まとめ──既存顧客からのアップセル継続発生は「能動的な設計」から生まれる
固定リストの既存顧客から継続的にアップセルを発生させるための実践手法をまとめます。
大型クライアントの特定
- HPとヒアリングで自社物件有無・施工件数・管理物件数を把握する
- 過去受注案件から大型クライアントの判断軸を整備する
サービス利用拡大のアプローチ
- 一部利用のクライアントには「なぜ一部なのか」を特定し、理由を解消する
- 全部利用のクライアントは維持・深耕に集中する
依頼方法の型化
- クライアントが楽で効率的な依頼フローを整備する
- 各担当者の連絡手段・依頼方法を個別に把握する
信頼関係の継続構築
- 報告書・提案から先手の改善提案を行う
- トラブル時に即対応し、「頼れるパートナー」という評価を積み上げる
これらの取り組みを設計・実践することで、「何かお困りごとありますか?」という受動的な架電から脱却し、能動的に案件を発掘し続けるアップセル体制が構築できます。
Produced by 株式会社プロセルトラクション
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この記事の執筆者
長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役
リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。100を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。







