最終更新: 2026年6月

MUST/MOREスクリプト構築とは、インサイドセールスにおいて必要最低限の基本型(MUST)と応用発展型(MORE)の2段階でスクリプトを設計し、メンバーのスキルレベルに応じた段階的育成を実現する手法です。

インサイドセールスチームでメンバーの数字に偏りがある場合、「全員に同じ指導をする」というアプローチでは解決しません。数字が出ていないメンバーと出ているメンバーでは「何が違うか」が人によって異なるためです。一律の指導が機能しない理由を理解し、「取れる人と取れない人の差」を言語化して個別最適な育成体制を作ることが、チーム全体の数字を底上げする鍵になります。

株式会社プロセルトラクションの2024年度ML部門年間準MVP賞を受賞した担当者の実践事例から、複数のインサイドセールスプロジェクトを横断して関与する中で、取れる人・取れない人の差の言語化・マインド・スキル別評価項目の設定・MUST/MOREスクリプトによる段階別育成・新規案件の勝ち筋構築という4つの取り組みで、担当PJ全てで継続達成を実現した育成設計を解説します。

「画一的な指導」が機能しないチームの構造

メンバーの偏りを放置すると何が起きるか

複数のインサイドセールスプロジェクトで発生していた状況は次の通りです。

  • メンバー間でマインドとスキルの両面に偏りがある
  • メンバーの数字に偏りがある

この状態で発生していた問題が2つありました。

問題1:全メンバーへ画一的な指導や育成が行われていた

アポが取れているメンバーと取れていないメンバーに対して、同じ内容・同じ頻度の指導が行われていました。取れているメンバーには過剰な指導になり、取れていないメンバーには的外れな指導になるケースが発生していたのです。

問題2:汎用的なスクリプトがない

「どのメンバーでも一定の水準で使えるスクリプト」が存在しないため、新規メンバーのオンボーディングに時間がかかり、苦戦メンバーへの介入手段が限られていました。

この2つの問題を解決するために設定した課題が、「メンバーのスキルに応じた最適な指導・育成体制の整備」と「汎用性のあるスクリプトの作成」でした。

取り組み1:取れる人・取れない人の差を4つの観点で言語化する

「感覚の差」を「言葉の差」に変換する

育成体制を整備するための最初のステップは、「なぜ取れているのか」「なぜ取れていないのか」を言語化することです。感覚で「あの人は上手い」「この人は向いていない」という評価をしている状態では、何を指導すべきかが明確になりません。

取れる人のマインドスタンスの特徴:

  • ゴールが個人のアポ数ではなく、プロジェクト全体の目標値に置かれている
  • 他責ではなく自責。できない理由ではなく、できる方法を探す
  • クライアントの看板を背負っているという自覚がある
  • 日報に書く改善策が具体的で、深掘りができている
  • 個人KPI設計と合わせてプロジェクト全体の進捗を把握している

取れない人のマインドスタンスの特徴:

  • KPIの数字はPJ管理者に報告するためと認識しており、自分ごととして追っていない
  • 他責・言い訳がメイン。できない理由ばかりを探す
  • ゴールが「自分のアポ数をクリアする」にとどまり、高い水準を目指していない
  • 日報に具体的な改善策がない。「明日は○件取る」と書いても「どうやって?」がない

取れる人の架電手法の特徴:

  • リストを上から順に消化するのではなく、優先順位をつけて架電する
  • 商材理解と同じボリュームで、競合の理解も事前に深めている
  • 多くは話さない。「話す<聴く」の比率を意識し、企業の課題感を引き出すヒアリングに徹する
  • 追客の管理が徹底されている(カレンダー管理・付箋管理等)

取れない人の課題の特徴:

  • 商品のインプットしか行わず、競合・顧客企業の理解が浅い
  • リストを上から順に消化するため、優先度の高い案件への接触が遅れる
  • 追客が疎になり、コネクトできないまま勝負の機会が減る
  • 話す比率が高く、課題感が不明のまま一方的に説明してしまう

この「差」を言語化することで、「何が問題なのか」「何を変えれば改善するか」が個別に特定できる状態になります。

取り組み2:マインド4項目・スキル6項目の評価基準を設定する

「感覚の評価」を「項目の評価」に変える

取れる人・取れない人の差を言語化した後に行ったのが、その差分をマインドとスキルの2軸に分類し、評価項目として設定することです。評価項目が明確になることで、「このメンバーはマインド面に課題があるのか、スキル面に課題があるのか」を見極めた上で指導の内容を変えることができます。

マインド面の評価項目(4分類):

  • 意欲(Motivation): 目的意識・主体性。目標達成意識・個人KPIとPJ全体の目標値・進捗を把握しているか。自律的に業務に取り組んでいるか
  • 挑戦(Challenge): 向上心・成長志向。他責でなく自責。クライアントの看板を背負う自覚があるか
  • 職責意識(Responsibility): 責任感・プロ意識。常に高みを目指しているか。日報の改善策が具体的か。不可能ではなく可能に焦点を当てているか。失敗を学びに変えているか
  • 業務姿勢(Work attitude): 積極性・柔軟性。アウトプットが多い。業務の進捗・課題を共有する。良好なコミュニケーションが取れているか

スキル面の評価項目(6分類):

  • 主体的思考力: 商材理解と同様に、競合やアプローチ先企業の理解を深めているか
  • 構造理解力: クロール元の特徴を理解した上で架電しているか
  • タイムマネジメント: リストの中で優先順位をつけて架電できているか
  • 業務遂行力: 追客管理が徹底されているか(カレンダー管理・付箋管理等)
  • 傾聴力: 話す<聴く。企業の課題感を引き出すヒアリングができているか
  • コミュニケーション力: 失礼のない程度に砕けた話し方ができ、最後は丁寧にクロージングできているか

これらの評価項目を使ってメンバーを見ることで、「何が足りないか」が指導者にも被指導者にも伝わりやすくなります(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

取り組み3:苦戦案件をMUST/MOREスクリプト体制で3段階再構築する

「取れているメンバー」と「苦戦メンバー」で使うスクリプトを分ける

苦戦しているプロジェクトに対する介入では、まず「現状確認」「環境改善」「スクリプト改善」の3段階で立て直しを行いました。

苦戦案件の再構築フロー:

  • 現状確認: PJMGRやSVに今のPJ状況を確認する。目指すべきゴールを確認してすり合わせる。「何が問題か」を先入観なく把握することがスタート地点
  • 環境改善: 環境の問題が特定された場合、環境を変えることが可能であれば環境改善を図る。環境改善が不可能な場合は、可能な範囲でスクリプトを改善する
  • スクリプト改善: MUSTスクリプト(必要最低限の要素を含む基本型)とMOREスクリプト(応用・深掘りのできる発展型)の2種類を作成する。取れているメンバーはMOREスクリプトを活用し、苦戦メンバーはMUSTスクリプトから始める。最終的に全員がMUSTからMOREに移行できるスキルをレクチャーする

MUST/MOREの2段階設計にすることで、「最初から完璧なスクリプトを使わせる」という無理な要求をせず、段階的にスキルを積み上げる標準化・再現性のある仕組みになります。

取り組み4:新規案件の勝ち筋をクライアントと共同で構築する

「情報の非対称性」を解消してから勝ち筋を作る

新規プロジェクトにアサインされた際に、最初に行うのがクライアントとの協力体制の構築です。クライアントの目標と目指している未来をすり合わせ、双方協力体制を構築することから始めます。

新規案件立ち上げの3ステップ:

  • クライアントとの協力体制の構築: クライアントの目標・ビジョンをヒアリングし、「何を一緒に実現するか」を明確にする。一方的な委託関係ではなく、双方が協力する体制を構築する
  • クライアントへの情報提供依頼: 勝ち筋を構築するために必要な情報を依頼する。優先順位は(1)商談録画、(2)契約済企業の特徴・規模感・課題感、(3)未契約企業の特徴・規模感・その理由、(4)他社比較表。これらの情報を早期に入手することで、「何が刺さるか」の仮説精度が上がる
  • 勝ち筋の構築と微調整: プロジェクトによって企業規模や市場が異なるため、複数のスクリプトを基にクライアント提供情報を組み込んでPJ個別のスクリプトを作成する。作成後は日々のPDCAで微調整を実施し、勝ち筋を磨き続ける

実践成果:担当全PJで継続達成・複数PJで130%超え

複数インサイドセールスプロジェクト横断での実践成果をご紹介します(プロセルトラクション実績, 2024年度)。

人材系サービス向けISプロジェクト:

  • 初月(1人月):目標28件→結果31件(110%)
  • 2月目(1人月):目標34件→結果45件(132%)

福祉・支援系サービス向けISプロジェクト:

  • 初月(1人月):目標25件→結果25件(100%)
  • 2月目(1人月):目標25件→結果29件(116%)

採用支援系サービス向けISプロジェクトA:

  • 初月(0.5人月):目標9件→結果9件(100%)
  • 2月目(1人月):目標19件→結果21件(110%)

採用支援系サービス向けISプロジェクトB:

  • 初月(1人月):目標30件→結果35件(116%)

定性成果: メンバーからは「話し方を変えたらスムーズに受付突破できました」「MTG以降、具体的に何を変えるか分かった」という声が届き、スクリプト改善と育成介入が実際の行動変容につながったことが確認できました。

よくある質問

MUST/MOREスクリプトとは何ですか?

MUSTスクリプトは必要最低限の要素を含む基本型、MOREスクリプトは応用・深掘りのできる発展型です。苦戦メンバーはMUSTから始め、段階的にMOREに移行することで、全員のスキルを底上げします。

取れる人と取れない人の差はどのように言語化すればよいですか?

マインドスタンス(目標意識・自責思考・プロ意識)と架電手法(優先順位付け・競合理解・傾聴比率・追客管理)の両面で、具体的な行動の違いを言葉にします。感覚的な評価を項目別の評価に変えることがポイントです。

マインドとスキルの評価はどのように使い分けますか?

マインド面は意欲・挑戦・職責意識・業務姿勢の4項目、スキル面は主体的思考力・構造理解力・タイムマネジメント・業務遂行力・傾聴力・コミュニケーション力の6項目で評価します。メンバーごとにどちらに課題があるかを特定し、指導内容を変えます。

まとめ──複数PJ横断のISコンサルタントが育成体制を整備する4つの設計

インサイドセールスチームのメンバー間の偏りを解消し、チーム全体の数字を底上げするための実践手法をまとめます。

取れる人・取れない人の差の言語化:

  • マインドスタンスと架電手法の両面で「何が違うか」を具体的に言語化する
  • 「感覚の評価」から「言葉の評価」に変えることで、指導の的が定まる

マインド・スキル別評価項目の設定:

  • 意欲・挑戦・職責意識・業務姿勢の4項目でマインドを評価する
  • 主体的思考力・構造理解力・タイムマネジメント・業務遂行力・傾聴力・コミュニケーション力の6項目でスキルを評価する
  • 評価項目が明確になることで、「何を変えるか」が個別に特定できる

MUST/MOREスクリプト体制:

  • 苦戦案件は「現状確認→環境改善→スクリプト改善」の3段階で再構築する
  • MUSTスクリプトを基盤として全員に使わせ、段階的にMOREスクリプトへ移行する

新規案件の勝ち筋構築:

  • クライアントとの協力体制を先に構築し、商談録画・契約事例・未契約事例・他社比較表を情報提供依頼する
  • 得られた情報を組み込んでPJ個別のスクリプトを作成し、日々微調整で磨く

プロセルトラクションのインサイドセールス支援サービスでは、スクリプト構築から育成体制の設計まで、新規事業・SaaSの営業組織づくりを一貫して支援しています。

この記事の執筆者

長谷川裕樹

長谷川 裕樹(はせがわ ゆうき)
株式会社プロセルトラクション 代表取締役

リクルートにてSMB〜エンタープライズの新規開拓・ソリューション営業・マネジメント・営業企画を経験後、新規事業責任者としてBtoB新規事業横断セールス統括を歴任。複数事業のセールス・マーケティング組織およびCSチーム立ち上げを経て、2018年コムレイズ・インキュベート設立、2021年プロセルトラクション設立。200を超えるBtoB新規事業のセールス・マーケティング支援実績を持つ。